パリオリンピック・パラリンピックに向けた準備です。テレビで現地からの中継なども流れるようになってきました。各競技会場の設営や用意も進んでいるようです。現地ではテロ対策などで緊張感も高まる一方、世界的イベントを前に街が高揚感に包まれる部分もあるのでしょう。
オリンピックとは直接関係ありませんが、最近多くの人が指摘するのは、パリで自転車レーンが急激に増え、自転車の利用が急速に進んでいるように見えることでしょう。普通はパリと自転車についてなど意識していないでしょうから、パリの街並を大量の自転車が走っているのを見て驚くようです。
オリンピック開催に向け、直近では少なくとも415キロの自転車道、自転車レーンが追加されました。それらの一部はコロナのパンデミックで急遽設定された臨時のレーンでしたが、それも含め恒久的なレーンとして整備され、オリンピック後にもレガシーとして残ることになります。
しかし、パリが自転車の街に変貌しつつあるのは、オリンピックに向けた渋滞対策などだけではありません。パリで自転車が目に見えて活用されるようになったのは、2000年代に入ってからです。その頃のパリを私も現地に滞在して知っていますが、まだまだクルマ中心の街だったのは間違いありません。
ただ、当時から環境への意識が高いことや、深刻な大気汚染への憂慮、渋滞や交通事故など他の大都市と同じような問題が背景にあり、その解決策の一つとして自転車の利用が検討されていました。大気汚染というと、日本人は中国やインドなどを思い浮かべますが、実はヨーロッパでも大気汚染が大きな問題なのです。
窒素酸化物などの有害物質や、特にヨーロッパで多いディーゼル車が排出する粒子状物質、PM2.5などが原因です。主にクルマの排気ガスを原因とする大気汚染で、ヨーロッパ全体では年間50万人もの人が早死にする要因になっていると報告されており、EUの保健機関などが警告を発しています。
このブログでもいろいろと取り上げてきましたが、有名な都市型の自転車シェアリングサービス、“Velib”(ヴェリブ)が始まったのは2007年です。世界の大都市の先駆けとなるシェアサイクルです。当時から渋滞するクルマの排気ガスによる大気汚染が問題となっており、他の都市と比べてもパリは深刻でした。
これに対処するため、クルマに対する規制を行ってきましたが効果が出なかったため、当時のパリ市長であった、Bertrand Delanoe 氏が、“Paris respire!”息ができるパリ)というスローガンを掲げ、他の政策と併せ、パリ市内のクルマの交通量を4割減らすという大胆な目標に向けた政策の一部として導入されました。
2014年に就任したフランス社会党の、Anne Hidalgo 市長は、自転車道の整備5ヶ年計画に着手し、1億5千万ユーロを自転車インフラ整備に投入しました。さらに同市長は、2期目には3億5千万ユーロを投じ、クルマ依存から脱却する計画を打ち出しました。
クルマの利用者にとっては、車線が減らされ自転車レーンが設置されるのは不便で不満なわけですが、クルマの交通量が減らなければ大気汚染も改善しないのは明らかであり、自転車インフラの整備が強力に進められました。パリでは公共交通のストが多発していた為、この頃、自転車を使う人が増えたという背景もあります。
そして、コロナのパンデミックです。公共交通での感染を避けるために自転車を使う人が急増し、リモートワークでクルマで通う人が減ったぶん、交通量の少なくなった道路の一部を臨時の自転車レーンにする動きが急でした。その多くは、その後恒久的なレーンとなり、市内全域に広がる形になったわけです。
もちろん、オリンピックに向けての都市の整備としても自転車インフラ建設は進みました。市の中心部の多くをクルマの乗り入れ禁止にする一方で、各方面で自転車の利用をしやすくしました。コロナ後に加速度的に進んだこともあり、2014年と比べて今年のパリの大気汚染は4割減ったそうです。
しかし、オリンピックが到達地点ではありません。“
Le plan velo 2021-2026”、2021年から2026年のサイクリング計画では、
パリを100%自転車に優しい都市にすることを目指しています。新たに2億5千万ユーロを投入して、1千キロ以上の自転車インフラが整備されます。
パリの自転車インフラを『完全なネットワーク』として整備し、パリの全ての道路で自転車での移動を可能にし、最初から最後まで自転車で移動できるようにすることを目指しています。双方向サイクリングルートを一般化し、信号などを自転車優先にし、駐輪施設の充実、子どもへの自転車教育なども含む総合的な計画です。
このような一連の自転車インフラの充実により、2022年10月から2023年10月の間には、パリの路上での自転車利用者が2倍になるという驚くべき事実も明らかになりました。五輪を契機に、スポーツとしての自転車のより広範な利用促進や、サイクルサーリズムの拡大なども視野に入れています。
オリンピック終了後には、パリ中心部に“ZTL”という交通制限区域が設けられます。クルマの通行を制限し、公共交通や自転車利用を促進ざせるものです。さらに、
2024年から2030年までの気候変動計画を定め、クルマによる大気汚染を大幅に削減する一方で、自転車活用はますます推進される予定です。
ここ数年でパリの自転車インフラが充実し、利用者が急速に増えたのは事実ですが、この数年の前には四半世紀に及ぶ計画の進展があったわけです。大気汚染や渋滞に加えて、コロナ禍やストライキなどさまざまな出来事や背景があったのも間違いないですが、もはや立派な自転車都市です。
思えば、ロンドンもいわゆるボリスバイクや地下鉄とバスの同時多発テロなどもあり、ロンドン五輪を契機に自転車都市へと飛躍しました。パリもパリ五輪だけではないですが、この期間に大きく自転車都市へと成長しました。それに比べ、東京五輪があったのにもかかわらず、東京では何も進まなかったのが残念です。
◇ 日々の雑感 ◇
そのフランスでは議会選挙が行われ、極右政党の躍進が予想されています。EU全体含め混乱が懸念されます。
Posted by cycleroad at 13:00│
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