どんな商品でもそうだと思いますが、新しい商品を開発しても売れなければ仕方ありません。そのために、他社の競合商品との差別化を目指すことになります。商品の開発そのものを工夫したり、価格戦略、広告や宣伝、流通や販売の面など、各方面で他社との違いを出すことに注力することになるでしょう。
自転車用品でも同じだと思います。例えばヘルメットのような定番で競合が多い商品であれば、ブランド力で売るとか、ファッション性、機能性、性能、価格の安さ、話題性、付加価値、宣伝広告など、いろいろな切り口や方向性を定めて戦略を練ることになるはずです。
自転車用のヘルメットの場合、とてもありふれた商品なため、なかなか差別化は難しく、いわゆるレッドオーシャン、競争相手が市場に多く、競争が激化している状態になりがちだと思います。飽和状態の市場に単純に商品を投入するのは得策ではありません。そこで、今までとは違う価値、新機軸を打ち出すメーカーも出てきます。
イギリスはロンドンを拠点に展開するスタートアップ、
Ventete 社が開発したのは、膨らませて使い、たたんで持ち運びが出来るヘルメット、“
aH-1”です。自転車を降りた時にヘルメットを持ち運ぶのにかさばる、邪魔になるという点を解決することにフォーカスしています。
折りたたむと、今どきのノートパソコンくらいの薄さになるため、ビジネスバッグなどに収まり、邪魔になりません。使う時には空気を入れて膨らませて、一般的なヘルメットと同じような形にして使います。空気で膨らますというと、頼りないイメージもありますが、その堅牢性は必要十分レベルです。
膨らませるのは専用のインフレーターで約30秒です。似たような発想で、折りたためるヘルメットなどもありますが、こちらのほうが、より小さいサイズになるので、邪魔にならないという点で優れます。もちろん、サイクリストの頭部を保護するため、高度な技術で設計されています。( ↓ 動画参照)
まだ発表されたばかりで詳細のスペックは明らかになっていませんが、空気圧による膨張技術は特許取得済です。開発期間は10年で、製造はスイスで行われる予定と言います。膨らんだ状態で見れば、一般的なヘルメットのデザインとも似ていて大きな違和感はありません。
この“aH-1”は、ヘルメットがコンパクトになってかさばらない、という機能を一番に重視する人がターゲットになるでしょう。こういう新機軸を打ち出すことで、他社の一般的なヘルメットとの直接の競合を避け、従来の市場とは別に、いわばブルーオーシャンを開拓しようとしているわけです。
サドルも自転車には重要なパーツです。昨今は電動アシストという動力もありますが、基本的に人間の力を効率的に引き出すためには、自転車のサイズやパーツがそれぞれのライダーの身体にフィットしていることが重要になります。サドルは人間と自転車の限られた接点であり重要な部分です。
ただ、お尻の形や骨格、筋肉の付き方などは一人ひとり違います。サドルが自分に合っていないと、効率的にパワーが伝わらないばかりか、お尻などに痛みが出てしまいます。そのあたりもサドル選びを難しくしています。ショップに行くと、たくさんの形、厚さ、硬さのサドルが売られていますが、何が最適かは人それぞれです。
デザインがいいとか、有名なブランドだとか、売り上げナンバーワンだからと言って売れるとは限りません。メーカーにしてもそのあたりが難しいところでしょう。そこで、
Fizik 社は、一人ひとりの身体データを採り、それに基づいて3Dプリントで制作するオーダーメイドのサドル、“
One-to-One”を開発しました。
専用の測定器がセットされた自転車を漕ぐと、サドルの圧力感知システムで64ポイントの圧力マッピングデータが取得出来ます。この情報の基づいて、それぞれの人に最適な仕様を割り出し、完全にカスタマイズされたサドルを3Dプリントで制作するわけです。基本料金は499ドルとリーズナブルです。( ↓ 動画参照)
これまでの販売データからも、どんな形状、硬さのサドルのニーズが多いといった情報はあったのでしょうが、それが、その時にサドルを探している人に合う、売れるとは限らないでしょう。そこで一人ひとりに合わせてオーダーメイドするという新機軸を打ち出したわけです。
サドルのトップ部分は、エラストマー格子ハニカム構造で、さまざまなサポートとクッションのゾーン間をシームレスに移行すると言います。これは従来のフォーム等の素材では実現できないフィット感なのだそうです。ただ腰掛けてみるだけでなく、実際にペダリングしているデータを採るのも重要なのでしょう。
3Dプリントによるオーダーメイドのサドルを展開するのは同社だけではありませんが、これまでのように多数のモデルを販売するのではなく、オーダーメイドのサドルというスタイルを提供することで顧客の満足度を上げ、多くの人に使ってもらおうという戦略なのです。
盗難防止のロックについても、新機軸を打ち出す会社があります。エストニアを拠点とするセキュリティを提供するスタートアップ、
Comodule 社です。この会社とドイツの、e-bike ブランド“2Lock”が統合して新しい
セキュリティソリューションを誕生させました。
これは従来のようなチェーンなどのロックではありません。ホイールのハブをロックして回転させないようにするものです。もう一つ、ホイールを不正に取り外せないようにする機能と併せ、盗難を防止します。この機能はアプリから有効にしたり無効にしたりできます。
システムが盗難の試みの可能性を検知すると、アプリに動きの警告が送信され、ホイールがロックされます。また、ドライブトレインイモビライザーや音響アラームなどの他のセキュリティ機能も起動します。盗まれた場合、ユーザーはアプリを使って自転車を追跡することもできます。
タイヤが回転しなくても持ち上げて運ばれてしまうこともあるからです。そのための機能ですが、ハブが回転しない自転車に乗ることは出来ず、換金するのも難しいでしょう。取り外すためには、ホイールやフォークなど、かなりの部分を破壊する必要があり、しかもかなり面倒なプロセスになります。
事実上、自転車を壊してしまうため、盗んでも実質的に無価値となってしまいます。このことにより盗難を防止するわけです。この夏のヨーロッパでの自転車イベント、ユーロバイクで製品発表が行われる予定です。開発責任者は、自転車の盗難を無くしていくための、重要なステップになりうると考えています。( ↓ 動画参照)
どれも、これまでにも同様の用途に使う自転車用品がある、定番と言える分野です。そこに新機軸を打ち出すことで、これまでの製品と差別化し、商品を売ろうという戦略です。中には、こうした新機軸から、自転車用品、パーツの常識を変えるものが出てくるかも知れません。
◇ 日々の雑感 ◇
イギリスは政権交代、イランは改革派大統領勝利、フランスは左派連合が逆転勝利、世界で政治が動いてます。
Posted by cycleroad at 13:00│
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