EUROBIKE 2024とは、ヨーロッパにおける自転車の見本市、展示会です。今年はドイツのフランクフルトで、今月3日から7日の日程で行われました。新しい自転車に加え、そのパーツやアクセサリー、周辺商品やサービスなど幅広く発表されるイベントです。
単純に自転車業界ということではなく、世界的なエコモビリティというトレンドの中でも、重要な経済要因を占めると考えられています。技術や市場というだけでなく、気候変動対策、自転車を活用する新しい都市計画、交通とモビリティの未来といった、さまざまな観点からも注目されるイベントとなっています。
今年もたくさんの新しい製品やサービスなどが発表されました。各方面で注目される製品や技術があったわけですが、その中で少し変わった新製品も注目されました。なんとチェーンを2本備えた自転車です。これは今まで見たことの無い自転車ではないでしょうか。
2WD、前後輪の両輪駆動にするため、普通の自転車とハンドサイクルを合わせたような試みはありました。しかし、それが駆動するのは別々であり、同じペダル部分と後輪をつなぐチェーンが2本というのは見たことがありません。パッと見ただけでは、果たして何の意味があるのかと思ってしまいます。
仮にチェーンが1本切れたとしても走行できるというメリットはあるかも知れませんが、意味があるとは思えません。チェーンなんて伸びることはあっても、そう簡単に切れるものではありません。どこかに出かけた際、チェーンが切れて修理を余儀なくされたなんてことは、ほとんど聞かないのではないでしょうか。
実は、これはチェーンの予備ではありません。チェーンリングと後輪のギヤがそれぞれ2つずつあり、それぞれにチェーンがかかっています。2組はそれぞれ固定ギア式、ピストとかフィクシーと呼ばれるものと同じ構造です。トラックレーサーや競輪用のシングルギアの自転車と同じものが2組あるわけです。
この自転車、一般的な方式であるディレイラーとスプロケットで変速するのではなく、2組の固定ギアを切り替えて変速するという新発想なのです。変速するには、ペダルを半回転後ろに回すだけで切り替わると言います。簡単に高速ギアと低速ギアを切り替えることが可能なのです。
なぜ、こんな変速が必要なのか、一般に普及しているディレイラーでいいのではないかと思いますが、当然そこには理由があります。ディレイラーは複雑で立体的な動きをするので、相対的にトラブルになりやすいと言えます。もし故障して、自分で直せなかった場合、自転車ショップ等に持ち込まざるを得ません。
しかし、この自転車、実はアフリカなどで使われることを想定しているのです。多くの場所で、周囲に自転車ショップなんてありません。パーツや工具も手に入らないような環境です。また、非舗装路がほとんどで、自転車のメカ部分に関しては非常にシビアな環境でもあります。
ディレイラーの無い固定ギアならば、シンプルで壊れやすい箇所がありません。操作のためのケーブルも不要です。ただ一方で、坂などもあるわけですから、変速が出来ればラクになります。そこで、構造のシンプルな固定ギアを2組用意し、固定の高速ギアと低速ギアを切り替えるという新しい方式を開発したのです。
この自転車を発表したのは、“
World Bicycle Relief”です。このブログでも何度か取り上げましたが、途上国に自転車を贈呈するプログラムを展開する国際的な非営利団体です。この団体が自転車を提供する途上国には、とにかく壊れにくい自転車がベターというわけです。
アフリカで自転車と言うと、あまりピンと来ない人もあるでしょう。サバンナのような舗装路もないような場所で自転車など役に立つのかと考えるかも知れません。実はそうではありません。自転車は特にサブサハラのアフリカの途上国では死活的に重要な移動手段になっている場所がたくさんあります。
最近でこそ経済発展を遂げる国も増えていますが、まだまだ貧しい地域は多く、そこの住人は当然ながらクルマやトラックなどは持っていません。道路やバス、鉄道などの交通インフラも不十分です。そうした地域の人々が、事実上唯一使えるのが自転車なのです。
移動手段の無い人は歩くしかありません。その目的地には仕事場も含まれます。貧困から脱出するために働きたくても、例えば鉱山への数十キロの道のりを歩いては通えないのです。収穫した農産物を市場に出荷しようにも、輸送する手立てがありません。
長い時間をかければ歩けたとしても、多くの場合、収入を生み出したり、技術を習得したり、他の必要を満たすための貴重な時間を奪うことになります。結果として、例え粘り強く有能な資質があっても、ただ交通や輸送の手段がないというだけの理由で、貧困から抜け出せない場合も多いのです。
日常生活においても、水を汲んだり薪を運ぶだけで、大きな労働力、長い時間をとられます。その距離も日本の感覚では考えられないほど遠かったりします。こうした労働は女性や子どもの仕事とされる場合が多いのですが、例えば頭の上に入れ物を載せて長い距離を歩くしかないのです。( ↓ 動画参照)
移動手段が無いため、あるいは移動コストが負担できないため、職場や学校、市場だけでなく、職業紹介センターや公共医療施設へ行くこともままなりません。交通費を支払える家庭でも、大部分は、その収入の4分の1程度という大きな金額を、どうしても必要な移動に費やさざるを得ないと言います。
こうした状況の中で、自転車は多くの移動や輸送のために効果的な手段です。自転車なら歩くより何倍も速く移動でき、何倍も多い荷物を運べ、他の手段に比べて格段に安いコストで済みます。自転車を使えることが、いかに重要で効果的な自立のための手段となるかは、私達の想像を超える部分があります。( ↓ 動画参照)
そうした人々にとって、自転車が『死活的』に重要な移動手段だというのは誇張ではありません。仕事場への移動や農場への出荷、水の運搬だけではありません。自転車は学校へ通う可能性を開くものであり、時には命を救うための『救急車』でもあるのです。( ↓ 動画参照)
そのような人々に対し、自転車を贈るだけでなく、場所によっては自転車の修理や製造などの技術支援を行ったり、産業として根付かせて雇用をもたらしたり、自転車の修理を各地域でサービスとして展開させるといった支援も行われています。先進国と仕様が近い自転車を使っている地域もあります。
しかし、まだまだ修理やメンテナンスにアクセスできない地域もあります。そのような場所では、少しでも修理の必要が生じないほうがベターです。シフトやケーブルなどを含むディレイラーのような部品は使わず、シンプルで壊れにくい自転車が求められる場合も多いわけです。
“World Bicycle Relief”は、自転車が配布される地域の環境に応じた自転車を設計しています。展開するブランド名は、“
BUFFALO”です。これまでも頑丈で耐久性を優先したモデルを展開しています。例えばスポークが通常より多かったりします。もちろん部品は世界的に互換性のある標準に準拠しています。( ↓ 動画参照)
実用性と耐久性、強度を重視したモデルを設計し、またコストを下げ、なるべくユーザーに近い場所で、現地の人が生産に携われるように考慮して、支援を展開しています。耐久性が高く、修理の可能性が低く、それでいて変速も出来て便利になるモデルが、今回の“
THE BUFFALO UTILITY S2”なのです。
彼らにとって、変速できる自転車には大きな恩恵があります。同じ労力で、より速く、より遠くまで走行できることは、仕事や市場出荷など、さまざまな面で成功のチャンスが増えることになります。今よりラクをしたいだけではないのです。このドライブトレインは
特許も取得済みです。( ↓ 動画参照)
一般に使われているディレイラーは、アフリカのような環境では、どうしても曲がったり損傷したり、切れたり、土などが詰まって動かなくなったりします。そうしたリスクを軽減すると共に、軽量化や将来的な改良、アルミリムやキャリパーブレーキなどを可能にする技術としても位置づけられています。
自転車関連の見本市、EUROBIKE 2024で発表されるのは、新しいモデルや技術、気候変動対策や新しい都市計画、交通とモビリティの未来といったテーマだけではありません。自転車によってもたらされる途上国の人々への支援、福祉や貧困からの脱却といった社会的なテーマも扱われています。
◇ 日々の雑感 ◇
討論会での失態に続き記者会見等でも言い間違い連発、バイデン氏への撤退圧力がますます高まっています。トランプ氏復帰なら世界の大惨事と彼はいいますが、それを防ぐのならば撤退を決断すべきではないでしょうか。