戦(いくさ)に限らず、何をするにしても空腹では力が入りません。お腹が空いている状態では、食べることばかり頭に浮かんで、考えもまとまりません。まず空腹を満たすことが先決なのは実感としてわかりますし、それは洋の東西、昔も今も変わらないでしょう。
しかし、その食事を得るのに苦労している人がいます。何らかの理由で貧困状態に陥り、その日の食事代を賄うことが出来ない人がいます。例えば失業です。アメリカでは、会社が業績不振になったりすれば、すぐにレイオフが行われますので、突然職を失って収入源を絶たれることもあるでしょう。

シリコンバレーのハイテク企業で高給を得ていた人でも突然レイオフに遭い、周辺は住宅不足で家賃が非常に高いため、住むところも失って、テント泊をしながら職探しをする人もいます。ローンを抱えていたり、失業保険が切れるなどして、食事にも困る状況に陥る人もいます。決して他人事ではありません。
空腹で力が出ないだけではありません。空腹でひもじい思いをするのは辛いものです。ごく最近まで普通に生活していた人が、何らかの事情でやむにやまれず貧困に陥り、ホームレスになる場合も少なくありません。住むところを失い、空腹を満たすことが出来なければ、再起を目指すどころではなくなるでしょう。

一方、そのような人たちを支援する人たちもいます。いわゆる炊き出しをしたり、フードバンクなど、廃棄食品を利用して貧困対策に役立てるなど、いろいろな活動をする人たちがいます。多くはボランティアであり、見知らぬ他人のために寄付をしたり、食事の支援に無償で働く人たちがいます。
さて、そのような人たちの活動に触発されて、自分たちも支援活動をしたいと思った人がいます。テキサス州オースティンに住む、Kelly Wourms さんと、Claire Harbuttさんです。2人は自転車仲間で、よく一緒に自転車に乗っていました。思い立ったのは2022年のことです。


支援を必要としている人たちに、例えば就業支援をするには、相応のネットワークやノウハウなどが必要です。公的機関でもなければ、簡単に出来ることではありません。根本解決のために必要な支援ですが、誰もが出来るわけではありません。しかし、まず目先の食事を提供するだけであれば、自分たちにも出来ると考えたのです。
そこでまず、食材を買ってきて自宅でサンドウィッチを作り、それを持って自転車で出かけ、食事に困っている人たちに届けることにしました。どうせ普段も趣味で市内を自転車で走りまわっているのですから、その足で食事を届けるのに造作はありません。( ↓ 動画参照)
食事を受け取った人の多くは笑顔になります。まさに空腹で困っていた人が食事を手に入れれば、文句なしに嬉しいでしょう。2人の活動は、その笑顔だけで報われます。この活動をやっていることに対する喜びや、自転車で走りまわる意義や充実感も得られます。
そのうち、2人だけでの活動には限界があることに思い当たりました。食事を作るのも、2人ではなかなかたいへんです。そこで、やり方を変えることにしました。地元のオースティンで食事の支援活動をする団体と連携することにしました。例えば、“
Food Not Bombs”という団体です。( ↓ 動画参照)
戦争と貧困に抗議するための活動です。政府は軍事予算を増やす一方で、飢餓に苦しむ人が増えていることに対する反発があります。爆弾より食料を、というわけです。全員ボランティアで、空腹の人に無料で食事を提供します。この団体は全世界に支部を持ち、ネットワークを広げています。
“
Our Shared Kitchen”もそうです。ホームレスの人などが栄養のある食事にアクセスできるように活動しています。やはり無料の食事を提供するボランティア団体です。ただ、どちらも、炊き出しのような形で、集まった人に無償で食事を提供する活動が主でした。


集まった人には食事を提供できますが、こうした活動を知らない人もいます。遠くて来られない人もいます。支援の必要な人に、必ずしもアクセス出来ていない面があったのです。そこで、Wourms さんと、Harbuttさんは、これらの団体と連携して、食事を運び、支援とそれを必要とする人をつなぐことにしたのです。
食事を届けるのに、自転車はベストのツールだと考えています。クルマでもあちこち行くことは出来ますが、支援を必要とする人には、なかなか会えません。細い路地に入っていったり、建物の陰にいる人を見つけ、声をかけたりするのには向いていません。誰もが大通りに向かって立っているわけではありません。

その点、自転車ならば小回りがききますし、支援を必要としている人をすぐ見つけることが出来ます。すぐに止まって声をかけることも出来ます。このような活動には自転車がベストだと感じています。そして、ふだんから自転車に乗っている2人にはピッタリでもあるわけです。
いくら地元でも、支援が必要な人を最初から知っているわけではありません。名簿や住所録もありません。自転車で周回し、それと思しき人に遭ったら、温かい食べ物や冷たい飲み物が必要かどうか尋ねます。受け取ってもらったら、他にも何か必要か聞いて、無ければ、良い一日を、と言ってまた次へ向かうだけです。

自転車に乗れれば誰でも出来ます。最初は、Wourms さんと、Harbuttさんの2人だけでしたが、次第に人数が増えたので、この活動をするグルーブに、“
Austin Bicycle Meals”と名付けました。実は2人が最初に触発されたのは、ロサンジェルスの、“
Bicycle Meals”の活動だったからです。
“Austin Bicycle Meals”の仲間も少しずつ増えています。地元に住むサイクリストであれば誰でも参加できます。決められた曜日の時刻に集合場所に行けば食事が用意されており、それをバッグなどに入れて出かけるだけです。時間も1時間程度で、普通にサイクリングをするのと変わりません。


支援と言っても、とりあえずは1人に1食届けるだけです。でも、このような活動をしていると、ホームレスの人とも顔見知りになったりします。徐々に信用してもらえ、話をしてくれ、頼りにしてくれたりします。そして必要ならば、支援団体とつなぐことも出来るでしょう。
まずお腹を満たしてもらうのが先です。お腹が空いていては、やる気も出ず、先のことも考えらないでしょう。でもその一食が、公的機関や支援団体へのアクセスのきっかけとなり、ホームレス状態や貧困を脱するための一歩になるかも知れません。サイクリングが、地域社会への貢献にもなりうる活動なのです。


◇ 日々の雑感 ◇
イスラエルのハマスの指導者やヒズボラ司令官の立て続けの殺害で今後のイランとの紛争拡大が懸念されます。
Posted by cycleroad at 13:00│
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