これは世界各国で掲げられている、いわば交通安全哲学です。道路交通において、死亡・重傷事故をゼロにすることを目指しています。しかし、単なる交通安全の目標ではなく、考え方です。道路交通システムにおいて、人命が損なわれるようなことがあってはならないという考え方です。
日本でもそうですが、毎日のようにどこかで当たり前のように交通事故が起き、人命が失われています。このことを良しとする人はいないとしても、ある程度仕方のないことと認識している人は多いでしょう。しかし、交通の利便性や経済効率のために、それが仕方のないことと捉えられていること自体、問題だと考えるものです。

交通事故の原因には、クルマのドライバーの失敗や不注意、軽率な行動などがあります。しかし、その背景には、それを許すような交通システムに問題があると考えるわけです。例えば、道路では交通弱者である歩行者や自転車を優先するよう求められています。しかし、それが疎かになっているのも確かでしょう。
交通弱者優先が疎かになっていても、直接取り締まられることは、普通ありません。結果として事故を起こし、死傷させれば罰せられますが、事故にならなければ、道交法上では定められていても罪には問われないことがほとんどでしょう。事実上、不問になっていることで人命が失われる、交通システムが問題との考え方です。

すなわち、人の不注意や軽率な行動、交通弱者をかえりみない行動を許してしまう交通システムになっています。それによって人命を失われていることに対し、社会が仕方のないことと捉え、移動効率や経済性を優先させているのが問題と考えるわけです。ビジョン・ゼロでは、これは決して容認されるべきでないと考えます。
例えば、横断歩道の脇に歩行者が立っていたら、クルマは止まらなければなりません。しかし、実際に止まるドライバーがどれだけいるでしょうか。ゼロとは言いませんが、止まらないドライバーは多いでしょう。国によって違いますが、これも法令で求められているにもかかわらず、歩行者が軽視されている例です。

欧米諸国の中には、日本と比べて止まる率の高い国もありますが、信号のない交差点で歩行者を優先する率が低い国や都市もあります。カナダのバンクーバーもその一つです。そこで、
ビジョン・ゼロ・バンクーバーは、あるキャンペーンを行いました。
横断歩道に、レンガを置いたのです。横断したい歩行者が、このレンガを持ってドライバーに見えるようにすると、通常より相当高い確率でクルマは停止しました。ドライバーも、停止義務があることは知りつつ止まらなかったのが、レンガを投げつけられてクルマに傷がつくことを恐れ、止まる人が続出したのだそうです。

実は、このレンガは本物ではなく発泡スチロール製のものなので、傷はつかないのですが、効果はてきめんでした。言い換えると、自分のクルマが傷つくリスクには敏感なのに、歩行者の安全は軽視し、事故を起こすリスクには、あまり真剣ではないことになります。
これは交通システムとしての問題です。人命を犠牲にしないため、交通弱者を保護する法令があっても、それが機能していないことになります。法令がおざなりになってしまっており、結果として事故が起きたときに人命が失われてしまうことになるわけです。( ↓ 動画参照)
もともとは、今年のエイプリルフールのジョークとして設置され、試されたものでした。中にはジョークだとわかった人もいたかも知れませんが、本物と思い、止まった人も大勢いました。これが動画などでSNSに投稿され、賛否両論の大きな反響を呼びました。
私も、話題になった当初に取り上げようと思いつつ、忘れてしまったので、すでにご存じだった方も多いかも知れません。中には、暴力行為を助長するとか、避けようとして、かえって事故が起きるといった声もありましたが、評価する声が多かったようです。数か月経っても、この取り組みを支持する人は多いと言います。( ↓ 動画参照)
レンガでなく、他の国や一部の都市であるような横断用の旗にすればいいとの意見もありました。しかしビジョン・ゼロのチームは、歩行者が旗を振っても止まらない人は多く、旗を振ることは屈辱的だと指摘します。ドライバーは何もせずに通過できるのに、歩行者だけ振るのは不公平であり、クルマが譲るのが筋だというわけです。
レンガは発泡スチロールだと知られれば、そのうち効果はなくなり、かえって危険になるかも知れません。この方法の横断歩道での歩行者優先効果が持続するかは疑問もあります。ただ、ドライバーが停止しないのは、歩行者が見えていないからではなく、気にしていないからなのが明らかになりました。

このような交通システムとしての問題を解決すべきなのは明らかです。これを座視している政府や行政は、交通システムの効率性や経済性を優先していることになります。結果的にこのことによって人命が失われているのは許されない姿勢だと非難されて然るべきでしょう。
ところで、カナダで思い出すのは、似たような行動をしたサイクリストがいたことです。以前取り上げましたが、トロント在住の、
Warren Huska さんです。道路の横断ではなく、ドライバーが道路で、Huskaさんの側方を追い越す時、あまりにも間隔が狭い人がいることを問題視していました。

トロントでも、自転車を追い越すドライバーに側方間隔を十分とるよう義務付けていますが、多くのドライバーはこれを遵守しておらず、意図的かどうかは別としても、幅寄せされることもあり、側方間隔確保に無頓着な人が多く、そのことで身の危険を感じていたのです。
彼が使ったのが、娘がプールで使っていた、プールヌードルです。写真のような棒状、あるいは筒状のもので、発泡ポリエチレンなどの素材で出来ています。軽くて浮力があるので、脇に挟むなどすると、プールで浮くのに役立ちます。海外のリゾートホテルのプールサイドなどには、たくさん立てかけてあったりします。

これを自分の自転車の後部に取り付け、法令で定められた、サイクリストの路上での権利を主張することにしたわけです。日本ではあまり見ませんが、普通はプールヌードルとわかります。ですから、クルマが傷つくようなことはないのに警戒して、ほとんど全てのクルマがこれまでより間隔を空けるようになったと言います。
法律で自転車追い越しの側方間隔の最低の幅まで決まっている国、州ですから、多くのドライバーは、そのことを理解しており、順守する気はあるのでしょう。ただ、ドライバーの中には、その条文を気にしていなかったり、そんなに近づきすぎていることに気づかなかったりする人も多いものと思われます。

日本だと、自転車は歩道を走るものと思っているドライバーがまだまだ少なくありません。こんなものを取り付けると反発されるだけかも知れません。しかし、そもそも自転車は車道を走行すると日本でも決まっていますし、追い抜きには十分な距離をとることも義務付けられています。
プールヌードルの自転車への取り付けを義務付ける必要はありませんが、警察が推奨してもいいくらいではないでしょうか。発泡ウレタンだと無視されるとするならば、先端に色を塗るなどして、接触するとクルマに傷がつくかも知れないと思わせるのが効果的かも知れません。( ↓ 動画参照)
横断歩道を横断していた歩行者がひき逃げされたり、道路の端を走行していた自転車利用者が、道路に倒れているのが見つかり、ひき逃げされたと見て警察が捜査している、といったニュースは巷にあふれています。日本でも人命が毎日のように、当たり前のように失われています。
それが、ドライバーの不注意や脇見、スマホ見ながら運転などの軽率な行為、交通弱者をかえりみない行動の結果であることも少なくないはずです。こんな状態を許していること自体が、本来はおかしいのです。人間の命が失われないよう、人間を優先する交通システムを実現していくべきではないでしょうか。


◇ 日々の雑感 ◇
ヒズボラがイスラエルへの攻撃に踏み切り、ハマスは停戦案を拒否、中東情勢はまた混沌とし始めたようです。
Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(2)
プールヌードル、使ってみたいところですが、日本では、法律違反になってしまいますね。(荷物を積載するとき。荷台の左右からそれぞれ150mm以上飛び出してはいけない、という規制に引っ掛かります)。
着衣については、幅の規制は無いようですので、衣装の一部としての物であれば実行は可能かもしれません。