国土が平坦というアドバンテージもあり、自転車の乗り物としての人気も高く、多くの人が移動からレジャーまで幅広く使っています。自転車インフラも充実しており、自転車の普及率も世界一です。第二次世界大戦後のモータリゼーションで、クルマであふれた時期もありますが、交通手段としての自転車を進化させてきました。
ところで、オランダは同時に鉄道大国でもあります。国土は日本のように山がちではありませんが、面積が日本の10分の1ほどしかないので距離では比べられませんが、日本やドイツと並んで鉄道密度が高い国です。ヨーロッパでは旅客輸送密度が群を抜いて高い国となっています。
当然ながら、自転車で駅に来る人も多くなります。平日の通勤には全鉄道利用者の4割以上、約40万人が自転車で駅に来ます。そうなると必要となるのが駐輪場です。以前から自転車利用者が多かったので、駐輪場はありましたが、近年は駅前の駐輪場の整備にも力が入れられています。
以前もアムステルダム中央駅の前の運河の地下に巨大で近代的な駐輪場が出来たのを取り上げました。ほかにも各地の駅で新しい駐輪場がオープンしたり計画されたりしています。駅前の再開発事業に駐輪場が組み入れられることも多く、駅に近くて便利なのが特徴と言えるでしょう。
従来の駐輪場の多くは、駅の外に駐輪ラックが並んでいるたげで、もちろん施錠はしますが、鉄道で出かけて戻ってきた際、まだそこにあることを祈るしかない状態だったと言います。駅前に駐輪できるだけ日本よりはマシとも言えますが、必ずしも満足される駐輪場とは言えない部分があったわけです。
そこでオランダ政府は、「
駅の自転車駐輪に関する行動計画」を発表し、実施のため2億2100万ユーロを予算化しました。迅速に計画は実施に移され、2019年までに約9万6千台分の駐輪場が増設され、合計で50万台に達しました。同時に多くの既存駐輪場が改修されています。
政府は2020年、新たに2億ユーロを割り当て、2025年までにさらに10万台の駐輪場が新設される予定となっています。現在は、
オランダの全374駅のうち都市部を中心に106駅には安全な駐輪場が設置されています。そのうち約半分は機械式の自動の駐輪場、残り半分は係員のいる有人の施設です。
駅によっては、この10年で10倍以上に駐輪台数が増え、ピーク時でも稼働率は70%程度と余裕のある駅が多くなっています。料金は乗車する時に使う電子マネーで支払えますが、最初の24時間は無料で、以降1日当たり、1.35ユーロという料金です。年間利用パスは約80ユーロです。
これらの料金や、レンタサイクルの利用料などを合わせると、駅の駐輪場の運営コストは、ほぼ賄えるそうです。さらに特筆すべきは、日本と違って施錠しない人はまずいませんが、もし施錠したにも関わらず、自転車が盗まれた時には、鉄道会社から最大750ユーロまで補償されることでしょう。
旧オランダ国鉄はEUの施策により、いわゆる上下分離が行われました。線路や駅などの施設を保有管理する会社と、旅客列車を運営する“
N.V. Nederlandse Spoorwegen(オランダ鉄道)”、貨物列車の運営会社です。このうち、オランダ鉄道が駐輪場も運営しています。
オランダ鉄道によれば、駐輪場そのものは収益の出る事業ではありませんが、鉄道収益を伸ばす事業と考えています。調査でも明らかになっていますが、駅に安全・便利に駐輪できれば、クルマなどではなく、自転車+鉄道という手段を選ぶ人が増えるからです。日本の鉄道会社には無い考え方ではないでしょうか。
実際に、駐輪場の増設や改修により20年前と比べて鉄道利用者が自転車で来駅する割合が2倍以上となり、鉄道利用者も増えていると言います。こうした実績を見て、ベルギーやフランスなど、ヨーロッパの他の国にも駐輪場の増設をする都市が出てきています。
駅に、“
Fiets & Service”というサービスステーションを持つ駅もあります。パンク修理から完全なオーバーホールまで自転車の修理全般を請け負います。自転車は朝預けて夕方受け取れるため利便性が高く、もし終わらないような修理の場合は、レンタル自転車を貸してくれます。
オランダ鉄道は、こうしたサービスを含めた駐輪場は、鉄道利用者以外にもお客を駅に呼ぶ効果があると考えています。駅に駐輪して、鉄道会社経営のカフェや商業施設などを利用したりする人もいるでしょう。こうした収益も、鉄道会社の経営を考える上で見逃せないと考えています。
オランダでは持ち込もうと思えば、通勤電車にも自転車を持ち込めます。しかし駐輪場がしっかりしていれば、それを思いとどまらせることも出来るでしょう。全体としてみれば、鉄道の輸送効率の向上に寄与します。いろいろな点で、直接の収益にはならなくても駐輪場の充実は重要だと考えているのです。
オランダ鉄道は、政府出資の特別持株会社なので、国の方針が反映する部分もあるかも知れませんが、戦略的に駐輪場を考えていることがよくわかります。政府が政策として駐輪場の新増設、改修を行った意図、公共空間を活性化して住民サービスを向上させる目的にも合致しています。( ↓ 動画参照)
もちろん、政府はこれが温暖化対策にもなると考えています。駐輪場の充実でクルマでの移動を減らせるからです。渋滞するクルマより、自転車+鉄道が便利になれば、そちらを使おうという人は確実にいます。このあたりは自転車人気の高いオランダならば、より効果は高いでしょう。
そして、政府も自治体もオランダ鉄道も、国民サービスとしての交通ネットワークということを考えています。つまり、いくら鉄道の路線網が充実していても、それだけでは交通ネットワークとして不十分という考え方です。駅から家や目的地へのラストワンマイルの移動手段が無ければ有効に機能しません。
距離にもよりますが、市民は歩くより自転車を使ったほうが速くて便利ならば自転車を使いたいでしょう。市民が鉄道と組み合わせて自転車を移動のラストワンマイルに使うならば、駅に駐輪場は不可欠ということになります。考えてみれば、至極当然のことです。
道路だって、国道や高速道路だけではなく、県道や市町村道、家までの生活道路が無ければクルマを使えません。鉄道だって駅と駅、都市間の移動は速くて便利ですが、駅から家や目的地までの移動手段が無ければ、それは交通システム、ネットワークとして不完全ということになるわけです。
日本の鉄道も、駅までの移動手段として自転車を使う人が多くいます。だからこそ、駅前の放置自転車も発生するわけですが、それは駐輪場という大切なピースが抜けているから起こると考えるべきではないでしょうか。交通システムとしての駅に人が集まるのは当然で、駐輪場が無い、貧弱、料金が高いのは不合理なのです。
自治体は億単位の予算を使って、放置自転車の撤去・移送をしています。当然イタチごっこです。延々と続けています。そんな費用があったら駐輪場を充実させるへきなのは、誰が見ても明らかでしょう。仕方なく発生している放置自転車を目の敵にするのではなく、そもそも駐輪場が足りないという欠陥を是正すべきです。
日本は自転車インフラが貧弱で、オランダなど自転車先進国と比べて大いに劣っています。自転車レーンなどの走行空間も必要ですが、駐輪場も欠かせないインフラです。それが無いことは、自転車交通というだけでなく、鉄道網という交通ネットワークの欠陥となっていることに気づくべきだと思います。
日本の鉄道は定時運行性に優れていますが、経営的には諸外国と比べて脆弱と言われています。過疎だけでなく、今後は人口減少が進みます。その中で、もっと鉄道を利用してもらうという観点から考えても、オランダの事例は参考になるのではないでしょうか。
◇ 日々の雑感 ◇
ドジャースの大谷翔平選手は史上初の43-43を達成し今日は44号。どこまで伸びるか、50-50が期待されます。
Posted by cycleroad at 13:00│
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