観光や保養、慰安、見物など、その目的も、スタイルも、日程も、距離もさまざまでしょう。海外旅行でも国内旅行でも、目的地まで飛行機などを使い、現地での乗り物を乗り継ぐなどして効率的に回るような旅行が一般的で、多くなっていると言えるかも知れません。
一方で、効率ではなく、その行動そのものに意味のある旅もあります。例えば巡礼です。聖地や霊場などを巡拝して信仰や何かの恩寵にあずかろうとする旅です。日本でもお遍路さん、四国八十八箇所巡りや西国三十三所の札所巡りなどが有名です。
最近は観光バスで足早に回るお遍路ツアーなどもあるようですが、お遍路さんは白装束を着て徒歩で巡礼するのが昔からの伝統です。八十八箇所巡るには相当の日数がかかりますが、速さや快適さを追求するのではなく、自分の足で巡る行為そのものに意味があり、目的ということになるでしょう。
海外にも巡礼はあります。例えば、サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路などが有名です。キリスト教の三大巡礼地の一つを目指す道で、1000年以上の歴史があります。現在でも年間10万人の人が徒歩で巡礼する姿が見られます。長期の休暇をとって、この巡礼を実現するのが教徒の願いだったりします。
さて、そのような歴史的な巡礼路ではなく、新しい巡礼路をつくるプロジェクトがあります。その一つが、ヨーロッパの9か国を巡る3000キロにも及ぶ「道」をつくろうというプロジェクト“
Circle4Change”です。その名の通り大きな円、環状のサークルの道です。
ただし、これは架空のサークルです。既存の道を結んで、地図上で見ると大きな環状路になるような道です。自然と地球と調和した世界に向け、人々を結び付けるというコンセプトで、それを提案したり刺激したりするとともに、風景アートのプロジェクトでもあります。
地球を豊かにする未来への現代の「巡礼路」という位置付けです。国境を越えて9か国にまたがるこの道は、古き良き時代、自分たちの歴史を知るとともに、より長期的な視点を持ち、生物多様性や持続可能性に富んだ未来を目指すものだと言います。同時につながりや連帯を意味するサークルでもあります。
同じ考えを持つ地域のコミュニティをつなげたり、サポートすることも目的にしています。これによって、自然を包括した農業や共同菜園などを構築したり、根底にある生物多様性や持続可能性などの目標へ行動することを目指しています。地域ごとだけでなくサークル全体のイベントなども計画しています。
このサークルはウォーキングとサイクリングのルートでもあります。講演やコンサート、展示会などと共にサイクリングのイベントなども計画されています。あらゆる年齢層に訴求し、出来るだけ多くの人に参加してもらい、ヨーロッパ各地の村から都市までつなげることを見据えています。
3000キロもの円をヨーロッパ大陸に描くという壮大でユニークなプロジェクトです。新しく道路を建設するわけではなく、仮想のサークルというのも現実的です。大きな目標を推進すべく、また人をつなげるために新しい巡礼路をつくるというのも面白いアイディアです。
他国と結んだり、円を描くといった点はともかく、日本でも新しい巡礼路をつくるというのは参考になるアイディアなのではないでしょうか。近年、自転車による観光振興を目指す自治体がとても多くなっていますが、その具体策は似たり寄ったり、あまり目をひくものではありません。
サイクリングロードを整備したり、自らの自治体の中の観光資源を使って、その一周のルートをアピールしたり、ガイドツアーを企画したりといったものが多いでしょうか。ただ、インバウンドへの訴求力まで考えると、必ずしも有効とは限らないものもあります。
インバウンドが、サイクリングを楽しむためだけに、その自治体を訪れてくれるとは限りません。知名度の問題もありますが、いかに日本の自然や景色、風土や伝統に親しめるかという視点に加え、旅のルートにしてもらえるようなコースかという点がインバウンドにアピールする要素になるのではないでしょうか。
すなわち、個々の自治体だけで完結するのではなく、隣接する自治体とコースをつなげていくような考え方があってもいいと思います。その道程を楽しむと同時に旅行ルートとして有効ならば、集客力も高まります。縦割りの弊害もあるのかも知れませんが、もっと広域に協力することがあってもいいのではないでしょうか。
必ずしも新しい道路をつくる必要はありません。接続や利便性・快適度を上げる整備は必要としても、既存のサイクリングロードや自転車で走りやすい道をつなげていけば大きな設備投資がなくても実現するでしょう。日本人にとっても、周遊できるようなコースが整備されれば、行きたい、使いたいと考える人は増えるはずです。
ちなみに、最近のニュースにこんなものがありました。
サイクルルート「黄金KAIDO」をPR 佐渡含む4県の金山結ぶ
世界遺産に認定された「佐渡島の金山」と静岡県伊豆市の土肥金山を結ぶサイクルルート「黄金KAIDO」=チラシ=が17日、ルート沿いの新潟、山梨、長野、静岡4県の知事らが集まり発表された。
両金山のほか、山梨県身延町の湯之奥金山、長野県茅野市の金鶏金山を結ぶ。中央日本4県の旧街道を巡る自然と歴史、文化に満ちあふれた自転車旅のルートで、合計距離550キロ。
新潟県のルートは糸魚川市と上越市を通る。南から入った場合、大糸線・南小谷―根知間を輪行(電車に乗って自転車を運ぶ)して根知駅から美山公園などを抜け、久比岐自転車道を通り直江津港から佐渡汽船で佐渡へ。
四つの金山を結ぶ新たなサイクルルートとして、各県で開かれるサイクルイベントやサイクリング関係のホームページなどで同ルートをPRする。今後、4県で連携し、日本列島を縦断する同ルートの認知度向上や交流人口の拡大に向けて取り組みを進めるとしている。(2024年9月27日 上越タイムス)
4県を越えて結ぶことで日本列島を横断できるサイクルルートです。これは、個々の県のサイクリングロードを訪れるのとはまた違った魅力があります。金山を結ぶというアイディアも盛り込まれています。単独の自治体ではなく、広域に連携している点で、今まではあまりなかった構想と言えるでしょう。
日本列島横断に加え、佐渡金山と土肥金山という観光や歴史的な興味もあります。必ずしも生物多様性や持続可能性といったコンセプトを掲げるものでなくても、自転車による観光振興を目指す上で、大きな観光資源となるに違いありません。
それを巡礼路と呼ぶかはともかく、隣接する県同士をつなげて広域に走行できるサイクリングロードが出来れば便利です。大きく日本を周遊できるようなルートが出来ていけば旅行にも使えて有用だと思います。既存の道路やサイクリングロードを結んで、新たなルートを構築するというスタイルは、もっとあっていいと思います。
◇ 日々の雑感 ◇
自民党の総裁選挙で石破茂氏が新たな総裁に選ばれました。今後の党人事や総選挙の日程が注目されます。
Posted by cycleroad at 13:00│
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