電動アシスト自転車や、e-bike などのバッテリーによる火災です。e-bike が急速に普及し、特に都市部では通勤などの移動や、フードデリバリーに使うモビリティとして広く使われるようになり、それにつれて火災も増えているのです。これが世界の都市で問題となっていることは、これまでにも取り上げてきました。
普通の自転車より単価は高いですし、盗難が多いこともあり、海外では室内保管する人が少なくありません。それが夜中に発火し、玄関近くに置いてあったりすると逃げる経路をふさぐことになってしまい、死傷者が出る例も少なくないのです。こうした火災が各地で増えており問題となっています。
(過去の記事)
日本でも警戒はしておくべき
リスクが過小評価されている
バッテリー自転車問題の対策
電動アシスト自転車のリスク
集合住宅では、自分が使っていなくても隣人が使っていれば火災に巻き込まれる可能性もあります。そこで電動自転車の利用を禁止したり、入居をことわるようなところも出てきます。バッテリー火災は消化が非常に難しいこともあり、消防当局も手を焼いています。
原因は、バッテリーの間違った使い方とされています。例えばバッテリーパックを落としたり、強い衝撃を加わった場合には使わないように警告されていますが、あまり気にせずに使ってしまう人もいるでしょう。直射日光が当たるなど高温になる場所での充電も禁止されていますが、そのことに気づかない人もあるはずです。
純正でないバッテリーパックの使用も禁止されています。しかし、バッテリーパックの盗難が多発していたりするので、どうしても格安ですが性能の伴わない互換品を使ってしまう人もあるでしょう。昨今は自転車店で購入せずにネット通販やネットフリマなどで手に入れるルートなどもあり、模造品なども広く流通しています。
こうした誤った使い方等が原因となって、寝ている間に充電するなどして火災が起きてしまうことになるわけです。走行中に爆発した事例もありますし、人が死傷する悲惨な火災に直結しています。各国の当局は社会問題として対策に乗り出す事態となっているのです。
こうした流れを受けて、新たな方向性を打ち出しているメーカーがあります。フランスのメーカー、
Gouach 社です。同社は、e-bike のメーカーにバッテリーを供給するなどしていますが、ブランド名を変更し、メーカーに提供すると同時に消費者にも直接提供することを計画しています。
バッテリーパックのメーカーや、電動自転車のメーカーにとって、格安粗悪な互換品の使用が問題でした。また、自分で改造することも発火のリスクとなっていました。このため、構造を独自の規格にしたり、バッテリーを簡単に分解したり修理できないようにするのは、必須の対策となってきたわけです。
Gouach 社は全く逆のことを考えました。すなわち、消費者が自分で修理したり分解したり出来るようにしたのです。これまでのバッテリーパックは、溶接や接着、ワイヤーを使うなどしてバッテリーパックを開けられないよう、分解・修理出来ないようになっていましたが、それを全て廃止しました。
まず燃えにくいようにするため、分厚いアルミニウム製の耐火ケースを採用しました。素早く放熱する設計により、火災の熱にも耐えるようにしました。ケースはねじ止めされていますが、普通の家庭にあるような工具で、簡単に開けることが出来ます。
バッテリーは一般的に、中で小さなセルに分かれています。バッテリーの故障は、そのうちの1本が原因の場合もあります。1本のために全体を廃棄したり、新しく買ったりするのは不経済です。環境負荷も高めます。そこで、バッテリー・セル1本から、消費者が自分で簡単に交換できるようにしたのです。
バッテリーセルは、ハンダ付けされている場合が多いのですが、そのような構造は止めました。スポット溶接したり、接着剤で固定するようなことはせず、1本から交換できます。これならば、全体を買い替える必要がないので費用もとてもリーズナブルです。自分でやれば工賃もかかりません。( ↓ 動画参照)
同社の、“
Gouach Infinite Battery”は市販の、e-bike のバッテリーの約90%と互換性があります。他社の自転車の場合にドッキングサポートと呼ばれるコネクターを取り付け、アプリからモーターのブランドを選択するという簡単な手順で、バッテリーが使えるようになります。
バッテリーやセルのライフサイクルなど知っておくべき情報、データは全て公開されており、セルの種類や接続するモーターの設定などを構成すると、現在のデータを確認したり安全警告を受け取ったりすることも出来ます。自分でハッキングして独自に拡張してもバッテリーの状態を把握できます。乗るのにアプリは不要です。
バッテリーをレンタルで使うことも可能で、故障が発生したらすぐにバッテリーを交換してくれます。購入して自分で修理することも出来るわけですが、苦手であれば修理を依頼することも可能です。バッテリーの状態を計測してもらい、セルの交換の目安を得ることも出来ます。
これを使えば、メーカー純正の高価な交換バッテリーを買わなくても済みます。e-bike のメーカーが廃業してバッテリーが手に入らなくなったり、修理が出来ないこともなくなります。90%の互換性なので、自転車を買い替えてバッテリーだけ流用することも可能です。経年劣化や充電容量の低下にも格安でセルだけ交換できるわけです。
これまでのメーカーは、消費者の使い方を懸念し、自ら修理したり改造したり出来ないようにするのが当然と考えてきまして。しかし、Gouach 社は消費者自身での修理や部品交換を可能にし、その権限を消費者に全面的に委ねるというオプションを選択できるようにしたわけです。
まもなく
発売開始の予定で、クラウドファンディングサイトで、早期割り引きでの販売も予定しています。同社の言う、一生使えるバッテリーは大げさとしても、バッテリーの安全性や使い方が大きく変わる可能性があります。バッテリーの廃棄は環境負荷が高いので、その点でも評価できます。
これは新しい発想と言えるでしょう。特に自転車の場合は、自分でメンテナンスする習慣のある人も多いですから、このスタイルを歓迎する声も多いと言います。セルの交換だけで済むならリーズナブルなので、丸ごと格安の互換品などを使う理由はなくなり、結果として利用者の安全につながるのではないでしょうか。
今後、こうしたスタイルが一般的になっていくのかどうかはわかりません。しかし、考えてみれば、電動自転車のバッテリーが各社バラバラで互換性がないより、共通していて、その気になれば自分で修理や交換できるほうが合理的でしょう。環境的にもいいわけですし、火災の発生も減らせるかも知れません。注目される動きです。
◇ 日々の雑感 ◇
イスラエル軍のレバノン地上作戦やイランとの空爆の応酬は拡大して中東での本格的な戦争になる可能性が高まっています。原油価格も上がっていますし、海運のリスクでコンテナ運賃も上昇しインフレ再燃も懸念されます。
Posted by cycleroad at 13:00│
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