1920年代のアメリカで、フォードモーター社がT型フォードの製造に大量生産方式を用いたことが象徴とされるように、あらゆる工業製品が大量に生産され、大量の広告で消費者を誘導し、人々が大量消費するようになったことでもたらされたのが、大衆消費社会です。
大量生産によって製品価格が低下し、経済成長で市民の購買力も上がって豊かさを実感したわけですが、近年はその弊害も多く指摘されるようになり、問題意識も広がっています。大量生産・大量消費は、大量廃棄となって環境汚染を招き、資源やエネルギーの無駄遣いも含めて環境負荷を大きくしています。
身近なところでは食品ロスです。まだ食べられる食品が大量に廃棄されています。その量は世界で年間25億トン、日本では年間500万トン以上にのぼります。アパレル業界でも、日本だけで年間100万トン以上の未使用の衣類が廃棄され、その環境負荷が問題になっています。
鉄鋼やEVなど中国の過剰生産が大量輸出によって各国と軋轢をもたらし、関税や貿易、経済安全保障の問題にまで発展しています。また、程度の差こそあれ多くの工業製品が、少なくともゴミ問題を深刻化させているのは否めないでしょう。自転車もその一つです。
前回はタイヤのリサイクルのしにくい性質を前提に、最初から再生材料を使ってタイヤをつくるメーカーを取り上げました。これも環境負荷を下げる取り組みですが、自転車から出る廃棄物はタイヤなどの消耗品に限りません。自転車そのものも廃棄物となっています。
その量も、毎年膨大な量となっています。使用できなくなったり、修理不能だったり、乗らなくなったりなど、さまざまな理由から自転車が廃棄されます。この、多くの自転車が捨てられるという事態そのものを変えることが出来ないかと、自転車市場を再考することを掲げたメーカーがあります。
フランスのスタートアップ企業、“
REF Bikes”です。自転車市場の流通の仕組みを変え、業界全体に革命を起こすと意気込んでいます。 この会社の主張しているのは、もっと自転車を廃棄しなくて済むようなスタイルに変えるという提案です。
自転車は、もともとパーツの互換性が保たれ、他社のパーツも含めて好きなように交換できる、とてもオープンな製品です。具合の悪くなったパーツを交換したり、自分の身体に合うものと取り換えたり、使い勝手を良くしたり、好みや必要に応じて部品の交換が自由に出来ます。
つまり、必要最低限の部品を交換することで自転車を修理・修復できるので、全部が使えなくなることはありません。それだけ廃棄物を減らす効果があります。しかし、部品交換が困難なパーツもあります。それはフレームです。一般的にフレームを中心にパーツを組んで自転車を構成しますが、フレームは変えられません。
一旦購入したフレームそのものをカスタマイズすることも出来ません。一方で、フレームを換えたいというニーズは存在します。それが不可能なので自転車そのものを換える、すなわち廃棄したり、手放して新しい自転車を手に入れることになります。
そこで、“
REF Bikes”は、フレームをコンポーネント式にして、チューブ一本ずつ交換可能にしました。今までは固定で溶接されてきたチューブをバラバラにすることで、一本一本交換することを可能にしたのです。これで、全て廃棄する必要がなくなる一方、細かくカスタマイズすることも可能になります。
フレームの一部が損傷した場合の部分的な交換も出来るわけですが、主なニーズはカスタマイズでしょう。例えば、生活環境や自転車の用途が変わってきたので、もっと多くの荷物を運びたいと、前輪のサイズを小さくして荷物をたくさん運べるようにしたいといったニーズです。( ↓ 動画参照)
子どもを乗せるようになったので、ホイールベースを伸ばして乗せるスペースを確保したいとか、バッテリーを搭載して、e-bike にしたい、といった要望もあるでしょう。これまではシティサイクル、ロード、MTB、e-bike など、それぞれの用途に応じた車種を購入、あるいは買い替える必要がありました。
しかし、“REF Bikes”は、“Plug&Go”と呼ばれる特許取得済みのフレーム組み立て技術によって、フレームの形状を変更し、用途変更を出来るようにしました。今まで乗っていた愛車を、例えばそのままロングテールに変更して子どもの送迎を可能にすることが出来るわけです。
新しく買い替えることなく違う自転車に出来るわけです。ほかにも、中古で購入した人が、自分の身体に合わせてサイズを変更することも可能です。このことによって、廃棄するパーツを最低限にする、廃棄物となる自転車を減らすことに貢献するというコンセプトなのです。
一台の自転車を長く使うことにもつながります。「一生使える自転車」を標榜しています。法人などを対象としたレンタルも展開しており、今後さらにいろいろなスタイル、オプション、アクセサリーなどが選択できるように増やしていく予定としています。
たしかに近年の素材や加工技術の進歩で、溶接でなくても必要な強度は確保できるのでしょう。ならば、フレームを分解・組み立てするという考え方も成り立ちます。この方式が業界全体に広がるかは別として、無駄な廃棄物を減らすという提案は、環境面では評価されると思います。
今はまだ限られていますが、例えば2人乗りにしたり、リカンベントやトライクにしたりも出来るようになる可能性があるでしょう。フレームの形状を自由に変えることで、もっといろいろな車種を楽しんだり、自転車の選択の自由度が上がって、使い方に、よりフィットさせて乗るようになるのかも知れません。
◇ 日々の雑感 ◇
いよいよアメリカ大統領選の開票が始まりました。米国のみならず日本や世界情勢に影響しますから注目です。
Posted by cycleroad at 13:00│
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