アメリカでは、大統領選挙で地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱する方針を示してきたトランプ氏が勝利しました。これにより同国の今後の協力は不透明であり、会議でも懸念の声が広がっています。アメリカの途上国への資金拠出も途絶える可能性が高いでしょう。
前回は、トランプ次期大統領が、ビジネスとしての自転車競技には興味を示したことがあったことを取り上げました。しかしながら、パリ協定の再離脱を公言してきた同氏が、温暖化ガス対策としての自転車の活用になど、到底興味を示すとは思えません。
もちろん、自転車政策は州レベル、あるいは都市や郡レベルの話です。アメリカの中にも自転車環境の整備に積極的な州や都市はあります。環境面だけでなく、自転車に乗りやすい街は若者が集まる傾向があるため、人材を獲得したい企業が進出する例の多いことが知られており、その点でも自治体は無視できない面があるのです。
いずれにせよ、産業振興や、それにつながる若者を引き付ける政策という点でも、州単位、都市単位の話です。アメリカの国政レベル、連邦政府の政策ではありません。一方、ヨーロッパでは違います。自治体や都市レベルから進めて、国として自転車政策を推進しようとする国が増えています。
さらにヨーロッパは先に進んでいます。今年4月、
EUとして欧州自転車宣言を正式に採択したのです。当然ながら具体的な整備をするのは国や自治体ですが、国全体の方向性を打ち出すだけでなく、EU全体として自転車の活用推進を進めるという宣言に同意したのです。
当然、これまで国によっても温度差があり、必ずしも交通面で重要視されているとは限らなかった自転車を、本格的な交通手段として位置付けています。自転車は最も持続可能で、利用しやすく、包括的で、低コストで健康的な交通手段およびレクリエーション手段であり、欧州の社会と経済にとって重要なものとしています。
欧州理事会、欧州委員会、欧州議会、ならびにEU加盟国の首脳らにより、ベルギーのブリュッセルのエグモント宮殿で正式に署名されました。この自転車に関する欧州宣言は、これまでで最も野心的なEUの取り組みとして高く評価されました。
自転車が戦略的優先事項に格上げされたことで、持続可能な交通手段としての自転車の潜在能力を最大限に発揮できるよう政策が進められることになります。このことで、欧州市民にとって環境面だけでなく、安全面や利便性、健康面でも恩恵がもたらされることになります。
さらに近年は電動アシスト自転車や、e-bike の普及もあいまって産業面、雇用面のメリットも指摘されています。この宣言の推進に尽力してきた欧州自転車連盟 (ECF)、欧州自転車産業協会 (CIE)、欧州自転車産業連盟 (CONEBI)といった団体も大いに歓迎しています。
自転車に対する認識や位置付けが違うため、日本では子どもの乗り物と考える人もいますが、欧州では、真にスマートで持続可能な輸送産業を生み出すことになると考えられているのです。産業としての自転車は、ーロッパが資金を投資すべき産業であると認識されつつあります。
また、安全性を向上させるため、ビッグデータを収集・分析し研究する動きも加速しています。乗る人を増やすためには、安全性の向上は欠かせません。物理的に防護された自転車レーンなど、高規格な自転車インフラを整備していくことも求められています。
こうした環境整備も含め、自転車は2030年までに100万人の新規雇用という規模で、欧州として大きな成長を遂げる可能性がある産業と見られています。乗る人が増えれば、その健康増進にも寄与し、生活習慣病などのリスクを下げ、各国の医療費・介護費用なども節減できるはずです。( ↓ 動画参照)
以前も取り上げましたが、パリ協定に加盟する約200カ国の場であるCOP29において、ヨーロッパ以外の国でも、自転車の活用は有力な政策手段になりうるとの認識が広がってきています。歴史的にも伝統的にも、自転車が政策手段に値する本格的な交通手段とはみなされてこなかったのが、明らかに変わりつつあります。
この欧州自転車宣言は、国同士の条約や規定ではありません。インフラの改善から道路の安全とセキュリティ面の改善、データ収集、業界の強化まで、あらゆることに関して8つの原則と36の公約を定めた戦略的な羅針盤です。これまでEUレベルではいかなる交通手段についても前例のないことであり、真に歴史的なものです。
例えば自転車先進国のオランダでも、つい3〜40年前まではモータリゼーションで、クルマが優先されていました。今もクルマから自転車へというのは、文明の逆行と考える人がいないわけではありません。しかし、いまや各国ではクルマに乗るのを減らしたり、自転車に乗り換えるのが当たり前の考え方になりつつあります。
COP29では、温暖化ガス削減のための広範な政策が話し合われるので、自転車政策はごく一部に過ぎません。ただ、ヨーロッパの自転車政策は、さらに一歩先へ行っています。まだまだ世界的には、この宣言のような考え方が支持されている国ばかりとは言えません。ただ、確実に世界へ広がりつつあるのも確かです。
◇ 日々の雑感 ◇
いわゆる103万円の壁の解消が期待される中、7兆円の税収減とか高所得者が得をするなどとアナウンスする財務省に反発が広がっています。増税するばかりでなくたまには減税のため支出を削ってみろと言いたくなります。
Posted by cycleroad at 13:00│
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