地域住民の行政窓口、戸籍や住民登録の管理、諸証明の発行、治安や消防、教育、保育、ごみ処理、上下水道の整備、公園や緑地の整備、まちづくり、各種文化施設などの運営管理に至るまで多岐にわたります。大きな自治体なら地下鉄やバスを運営するところもあります。
当然そのための費用がかかります。税収や地方交付税、あるいは地方債などでまかなうわけですが、予算は膨らみがちです。なかには人気の別荘地や観光地があるなど、地価が上がって固定資産税収入が増えていたり、大きな企業の本社があって、法人県民税・市民税・事業税等が潤沢に入るところもあります。
しかし、多くの自治体では余裕はなく、特に過疎化や少子高齢化によって地方税収が下がる一方というところは多いでしょう。すると、自治体の仕事も縮小・整理せざるを得ません。高度経済成長期に雨後の筍のごとく造られた、いわゆるハコモノを撤去・廃止したりする必要もあるでしょう。
人口が減っているのに、市街化区域が広がっている場所では、インフラ面のコストがかさみます。いかにコンパクトシティーにしていくかが問われますが、住民の住み替えを促すのは容易なことではありません。地方税収を上げようとすれば、さらに他の自治体への転出が増えたりして、縮小のスパイラルとなります。

出費のほうでも、自治体の予算規模を減らすのは、なかなか難しいものがあるでしょう。さきの衆議院選で躍進した国民民主党の手取りを増やす政策に対しては、地方自治体から税収が大幅に減ることになるため、一斉に懸念の声が上がったのも無理はありません。
教育や福祉の予算が減らされるなどとアピールした首長もありました。もちろん、支出項目にも優先順位がありますから、必ずしも教育や福祉が削られるとは限りませんが、住民に対する直接的なサービスを減らさざるを得ないと訴えることで、年収の壁の引き上げに待ったをかけたい気持ちだったのでしょう。
この議論はともかくとして、財政の厳しい自治体は多く、債務も積みあがっています。道路や橋、トンネルや上下水道といったインフラも老朽化し、補修や再建が必要なケースも多く、いずれにせよ、どこかを削っていかざるを得ないのは明らかでしょう。
では何から削るかということになりますが、やはり住民サービスとして必要性の低いものからということになりそうです。公共の事業は営利事業ではないので採算性だけでは判断できません。何が必要性が低いかというのも人によって意見が分かれるかも知れません。

これは海外、とくに先進国の自治体でも事情は同じです。イギリスのサウサンプトンも例外ではありません。石器時代から人々が住んでいたことがわかっているくらい歴史のある街ですが、サウサンプトン市議会は、いかに予算を削減するか議論を続けてきました。
たくさんある住民サービスの中から、予算削減の対象の一つとなったのが
図書館です。イングランド全体では約600の図書館が閉鎖されたと報じられていますが、サウサンプトン市でもいくつかの図書館が閉鎖、廃止されることになりました。

図書館が不要とは言いませんが、例えばゴミ収集と違って、無くなって明日から困るわけではありません。全部が廃止されるのではないので、不便になる人も出ますが、多少遠くなっても利用は出来ます。そもそも、市民で図書館を利用する人の割合は決して高くはないのが実情でしょう。
ただでさえ、本を読まない人が増えています。今どきなら、スマホでSNSや動画コンテンツ、ゲームなど、ほかに人気の高い娯楽はたくさんあります。それらの視聴などで時間がとられるため、本を読む平均時間も年々減っています。近くの図書館が廃止されても、特に困らない人は若い世代を中心に多いに違いありません。

本を読む機会と言えば、近年書店も減っていますが、オンラインでも本は手に入れられます。ネットでデジタルの本も利用出来ます。勉強したり、在宅勤務の場所として使う人もあるでしょうが、それは一部に限られます。図書館という形で存続させることの優先度が高いとは言えないでしょう。
ただ、抗議活動も起きました。
図書館閉鎖計画に抗議して、数十人の市民が本を手に黙ってサウサンプトン市内を歩きました。存続する館もありますが、廃止される館は少なくありません。図書をバスなどに載せて巡回する移動図書館サービスも廃止されます。

子供たちにとって図書館は非常に重要な施設であり、地域のコミュニティにとっても欠かせないとする主張も理解できますが、やはり優先順位的には難しいでしょう。抗議活動も静かに歩くだけで、プラカードやシュプレヒコールであふれるデモのような勢いはありませんでした。
図書館は無いよりあったほうがいいのは間違いありませんが、過半の市民の支持は得られませんでした。建物は残してボランティアに運営してもらうとか、さまざまな対策も検討されましたが、方向性は変わりませんでした。良質な教育のため、このような無神経で近視眼的な決定は間違いだとの声は届きませんでした。

図書館を使わない人には何も問題ありませんが、各図書館には多くの利用者がいました。少し遠くなるのを我慢した人もいたでしょう。しかし、問題は高齢だったり、障害があって、遠くの図書館までは行かれない人たちの存在です。本を読むことを全く諦めざるを得ない人がいました。
こうした事態を受け、サウサンプトン図書館は新しいサービスを考え出しました。図書館が市民に本を届けるサービスです。遠くの図書館まで行かれない人、移動手段がない人などに、
本の無料配送サービスを始めたのです。読みたい本を、図書館が自宅まで届けてくれます。
ただ、それを宅配便などを使うと経費がかかるので、図書館員、またはボランティアの人が電動アシスト自転車を使って配達します。クルマでは車両費をはじめ燃料費などのランニングコストも高くなってしまいます。そして今どきですから、環境のことを考えて、当然のように自転車というわけです。

ある図書館の常連さんは、遠い図書館まで一人で行くのは困難と思っていたので、とても喜んでいます。足が悪いため、この制度は理想的だと話します。小説や政治の本や回想録、探偵ものなど、毎週本が届くのを楽しみにするようになりました。
また別の常連さんは、5歳の頃から図書館の本を読んで来ました。もう読書は諦めざるを得ないと思っていたのが、このサービスで読書を続けることが出来たと話します。本を買い続ける余裕のない彼女にとって、このサービスのおかげで、読書という生涯の情熱を持ち続けることが出来たと言います。
このサービスが出来たことで、逆に今まで図書館があっても行かれなかった人に朗報となったケースもあります。なにしろ無料ですし、市民であれば登録さえすれば誰でも利用できます。朗読のCDや、大きな文字の書籍といった障害のある人向けのものも揃えています。

これは、なかなか気の利いたサービスと言えるのではないでしょうか。いくつか図書館を閉鎖して予算の削減を実現する一方で、これならば閉鎖に伴う住民サービスの低下をいくらか補うことが出来、かかる経費は圧倒的に少なくてすみます。今まで、予約取り置きはあっても、宅配サービスというのはありそうでなかったと思います。
自転車で移動図書館というのはありましたが、ニーズとマッチするとは限りません。これなら外出さえままならない人にとっても福音となるはずです。おそらく、従来の図書館の概念、予約、取り置きといったシステムからでは、このような発想は生まれなかったのではないでしょうか。
自治体で、いかに住民サービスの質を落とさずに経費を削減するか、頭を悩ませているところは多いと思います。老朽化やコスト削減でハコモノを減らさざるを得ないケースは多いと思いますが、市民に来させるのではなく、こちらから出向くという発想は、ほかにも使えるかも知れません。
◇ 日々の雑感 ◇
受験シーズン本番ですがインフルエンザが猛威を振るっています。しかも薬不足ですから受験生は心配ですね。
Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(0)