自転車による運動での減量や、生活習慣病の予防、心肺機能の強化から、うつ病の予防やメンタル面の健康維持に至るまで、たくさんの健康増進効果が認められています。このブログでもいろいろ取り上げてきましたが、自治体などが自転車の活用推進のメリットの一つに挙げるなど、世界中で広く認められています。
自転車に限らず、有酸素運動全般に効果があるわけですが、例えばジョギングと違ってヒザなどへの負担が小さいなどの利点があります。ただ走っているだけでも、地面への着地の瞬間には体重の3倍もの衝撃が加わると言われており、そうした衝撃のかからないペダリングは、故障のリスクの小さいのが利点です。
このあたりについては、もはや異論の余地はないと思われます。運動の種類には好き嫌いがあるとしても、例えばスポーツジムなどにもエアロバイクが置かれていますし、ペダリングが運動としても広く普及しているのは間違いないでしょう。通勤に使うなど日常的に自転車に乗る人も大勢います。
医療の現場でも使われることがあります。自転車エルゴメトリーという運動負荷心電図検査法があり、エアロバイクのような器具でサドルにまたがり、胸に心電図の電極をつけてペダルをこぐことで、心肺機能などの指標の計測が出来ます。心臓へ負荷をかけて、病気の程度や治療の効果を測定したりします。
リハビリテーション科があるような病院では、病後のリハビリにも使われています。病気や怪我を治療した後、運動機能や身体の動作能力などを回復させ、通常の生活や仕事への復帰を目指します。この種の運動のためにも、負荷も変えられ、室内の小さいスペースで行えるエルゴメトリーが使われます。
一般的にリハビリを行うのは治療が終わるか、終わりに近づいた頃です。病室のベッドに寝たままだと筋肉量が減り、例えば1週間くらいの短期間でも、急速に筋肉量が低下することを実感した人も多いのではないでしょうか。そのため近年は、なるべくベッドで安静にする期間を減らし、リハビリ開始を早めるのが一般的のようです。
ここまでは常識的な内容なので、疑問の余地はないと思いますが、自転車エルゴメトリーのようなペダリングを使ったリハビリを、さらに早めたほうがいいと考えた人たちがいます。なんと、ベッドで安静にして回復を待つ期間どころか、まだ集中治療室にいる時から始めるというのです。
ICU、集中治療室と言えば、重篤な症状、身体機能の急性な不全に陥った患者を24時間体制で管理し、集中的な治療を行うところです。多くの場合、呼吸を管理したり生命維持装置などを取り付け、各種の状態をモニタリングする機器につながれています。逆にそのような重篤な患者でなければICUには入らないでしょう。
それなのに、一般病棟でなく集中治療室にいる時から、自転車エルゴメトリーを使ったリハビリを開始するというのですから驚きます。カナダのマクマスター大学、クイーンズ大学の各医学部、セントジョーンズ研究所などの医者や研究者がデータをとり、結果を公表しました。
アメリカの医療雑誌、“
The New England Journal of Medicine ”で発表しました。マサチューセッツ内科外科学会によって発行され査読制の医学雑誌で、継続して発行されている医学雑誌のうちでは世界で最も長い歴史を誇り、世界で最も広く読まれ、最もよく引用され、最も影響を与えている一般的な医学系科学雑誌です。
“
Leg Cycle Ergometry in Critically Ill Patients ? An Updated Systematic Review and Meta-Analysis ”という論文です。それによれば、病名や診断の有無に関わらず、24時間以上ICUに入院した重篤な成人患者を対象に、サイクリング介入と対照(サイクリングなし)を比較するランダム化比較試験を組みました。
主要評価項目は身体機能で、この評価項目を試験全体で標準化するために階層的アプローチを使用しています。ランダム効果メタ分析を実施し、“
Grading of Recommendations Assessment ”、開発、評価アプローチを使用して効果推定値の確実性を評価したとあります。( ↓ 動画参照)
VIDEO
このあたりは専門的なので私も詳しくはわかりませんが、この実験で、集中治療室にいる患者に自転車エルゴメトリーを組み入れた人と何もしなかった人で比較し、その効果を計測したのです。その詳細な結果はリンク先で読んでいただくとして、思いがけない結果が得られました。
この試験のメタ分析によれば、集中治療室にいながら自転車のペダルをこいだ人は、そうでない人と比べて身体機能が改善し、ICU滞在期間が短縮し、おそらく入院期間も短縮される可能性が高い一方で、死亡率などの他の結果には影響がないことがわかったというのです。
集中治療室にいる患者にペダルをこがせるなんて、一般人の常識を超えている気がしますが、そのほうが早く回復したのです。筋肉量の低下、身体の衰えを防いだというのではありません。もともとのICUに入る理由となって疾患や怪我の回復速度が速まったということになります。
おそらくICUで、たくさんのチューブやコードにつながれた状態でしょう。もし私がICUにいて意識があったら、そんな状態でのペダリングは拒否すると思います。それでペダリングをすれば、悪い影響、つまり死亡したとか病状が悪化しても不思議ではありませんが、そうした結果は出なかったというのですから驚きます。
そもそも集中治療室にいる患者にペダルをこがせるという発想に驚きます。集中治療中とは言え、ベッドに寝たままでいれば、筋肉や心肺機能が衰えるため、そのこと自体がマイナスであり、疾患そのものに対しても悪い影響を及ぼすということなのだろうと思います。
ただ、集中治療室にいると言ってもいろいろな原因、症状、状態の人がいるでしょう。それと関係なく試験をしたようですが、個々の事情は影響しないのだろうかと素人の素朴な疑問が浮かびます。たしかに期間は短縮されたと言っても、それほど大きな違いとは言えず、誤差の範囲のようにも思えてしまいます。
もちろん、権威ある医学誌に掲載された研究ですから、私のような素人の疑問が入りこむ余地はないと思います。ただ、それだけ一般常識からは思いもよらない試験であり、結果だと言えるでしょう。他の手法は使われていないので比較は出来ませんが、もしかしたらペダリングというのは、本質的に人体にいいのかも知れません。
自転車が健康にいいということについて、異論をはさむ人は少ないと思います。病気の予防、あるいはリハビリについても効果を実感するでしょう。しかし、集中治療室にいる時から、身体機能に加えて疾患からの回復に効くとは思いませんでした。人間にとって、いかに運動が大切かということなのかも知れません。
◇ 日々の雑感 ◇
ガザでの停戦がようやく合意されたかと思えば発効が不透明になっています。なんとか実現してほしいものです。
Posted by cycleroad at 13:00│
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