政治や行政に対しても、立場によっていろいろな声、意見があるでしょう。市民でも皆同じというわけではありません。ただ、その声も上げなければ伝わらないということがあります。例え少数意見であったとしても、それが共感されて政治に反映されていくこともあります。
イギリスはロンドン在住の、Isabelle Clement さんは、生まれつき足が不自由でした。杖をついて歩くのにはとても時間がかかり面倒でした。20代になって家族の助けを借り、クルマを購入できたことは幸運でした。クルマのおかげで、いろいろな場所へ行くことが出来るようになり、行動範囲が大きく広がりました。

もちろんクルマ椅子も使っていました。屋内では問題ありませんが、屋外を移動するのに車イスはかなり不便でした。車イス自体に問題があるわけではなく、歩道や、いわゆるバリアフリーの面で不便が多かったのです。公共交通を使おうにも不便なため、クルマを使うことが多かったと言います。
20年ほど前、息子が4歳になった時、初めて息子用の自転車を買いました。それまでは車イスをクルマに載せ、公園に行って息子を膝の上に乗せていたので問題はありませんでした。でも息子が自転車に乗ると、だんだん車イスでは追いつけなくなり、公園行きを止めるか、自転車を止めさせるか、父親に同行してもらうか悩みました。

その時に見つけたのが、クルマ椅子に取り付けることの出来るクリップオンタイプのハンドサイクルでした。これならばクルマ椅子より格段に機動力が上がり、息子の自転車にも追いつけます。最初は歩行の補助具として、息子や友達と散歩に出かける時などに使っていました。
そのうち、車イスに取り付けるタイプだけではなく、いろいろなハンドサイクルがあることも知るようになり、トライクタイプのハンドサイクルは、車イスに取り付けたクリップオンタイプと、実質的に同じだということに気づいたのです。つまり、自転車と見ることが出来ると思いました。
足でペダルをこぐか、手でペダルを回すかの違いはありますが、どちらも自転車の一種です。さらに、電動アシスト付きのクリップオンタイプのハンドサイクルにアップグレードしたため、さらに機動力がアップしました。ギヤがあるため、もともと坂なども上れましたが、電動アシストで、よりラクに移動できるようになったのです。
そして、ハンドサイクルを使い、身体に障害のあるサイクリストとして移動するほうが、車椅子ユーザーとして移動するよりも、ずっと怖くないということに気づきました。それまでほぼクルマでしか移動していなかった、Clement さんにとって、これは画期的な発見でした。

ロンドンでは近年、自転車インフラの整備が進んでいます。サイクルスーパーウェイなども出来、自転車だけでロンドン中を移動できるようになったので、勤める団体の会議にもクルマでなく、自転車で行くようになりました。電車にハンドサイクルを載せて移動することもあります。
ロンドンの古い石畳の道などでは、車椅子よりハンドサイクルのほうが、はるかに移動しやすいことも痛感しました。さらにひったくりなどの防犯面などでも、自転車レーンを疾走するほうが、クルマ椅子より安全に感じます。スピードも違いますから、所要時間も大いに短縮できます。

Clement さんの勤める団体とは、“
Wheels for Wellbeing”という慈善団体です。直訳すれば「幸福のための車輪」です。この団体は、自転車、あるいはハンドサイクルが、足の不自由な障害者にとって大きな力となることを知ってもらうことを大きな柱として活動するNPOです。
Clement さんがそうだったように、自転車なんて考えてもいない障害者は大勢います。もちろん、全ての苦労を魔法のように全て取り除けるわけではありませんが、ハンドサイクル、あるいは車椅子にクリップオンタイプのハンドサイクルを取り付けることで、移動の大きな助けになります。

この団体のディレクターを務める、Clement さんは、自分のように障害者に画期的な発見をしてもらい、日常の利便性を高めると共に、障害者に運動の喜びを取り戻してもらうことを目指しています。“Wheels for Wellbeing”は障害者に自転車に乗ることが出来ることを知ってもらい、それを支援する団体でした。
しかし、Clement さんは、それだけでは足りないと感じるようになりました。障害者が自転車を使うためには、インフラも重要な要素だと痛感したのです。自転車が便利だと知っている障害者でも、日常的に使っていない人は多く、それは居住地域の自転車のインフラの不備が主な理由だったのです。

ですから、一般のサイクリストだけでなく、障害のあるサイクリストがもっと政治や行政に向けて声を上げる必要があると感じました。一般の人と違う障害者にとっての障壁があります。最近は自転車インフラの整備が進んでいますが、障害者の声も入れてもらって、インクルーシブな社会を目指すべきだと考えて活動しています。
障害者の場合はトライク型の自転車、ハンドサイクルに乗る場合が多いので、一定程度の幅が必要です。こういった要望を含め、自転車レーンを、「モビリティレーン」にするよう求め、障害者をマイクロモビリティのユーザーとしてみるよう、関連法の改定を求めています。

車イスなどを、障害者の移動補助器具として規制している法律もあるのですが、その扱いを止め、障害者用車両として扱うことも求めています。行政にも特に反対する理由の無いものが多いのですが、これまで気がつかないうちに障壁になっていたものもあるのです。
自転車インフラの整備ガイダンスにも障害者用車両への配慮が取り入れられました。まだまだクリップオンハンドサイクルなどは価格が高いため、政府の補助対象に加えてもらう方向で動いています。こうした実績が評価され、
Clement さんは、名誉大英勲章(MBE)を授与されました。( ↓ 動画参照)

実は、“Wheels for Wellbeing”については、このブログで過去にも取り上げたことがあります。その時は、ハンドサイクルなどで障害者を支援する団体として取り上げました。今もそうですが、障害のある人に向け、『自転車に乗れないと思っていませんか?もう一度考えてみてください!』と呼びかけていました。
誰もが自転車に乗ることで得られる身体的、感情的、実用的、社会的恩恵を享受できるようにし、障害のある人々の生活を向上させることが目的です。さらに今は、自転車利用の障壁を取り除くことを政治や行政に働きかけ、いかにこれまで、自転車インフラに配慮が足りなかったかに気づいてもらう活動も展開しているわけです。


いわゆるバリアフリー化だけでなく、もっと広範にアクセシビリティを高める必要があります。そして、それは高齢者のためにもなりますし、必ずしも高コストのものでもありません。誰もが自転車を利用でき、例えば障害のある人でも自転車通勤が出来るような社会が必要だとのコンセンサスを広げつつあります。
これまで、障害者自身があまり知らなかったという面もありますが、移動手段として使うためには、やはりインフラ面などが重要になります。今イギリスでは、自転車インフラの整備が進んでいますが、そこに障害者視点も入れてほしいという活動なのです。

モビリティレーンの充実によって障害者は、もっと自転車に乗れるようになります。今はインフラ面で障壁を感じている人がまだまだ大勢います。特別な扱いを求めているわけではありません。少しの配慮だけで乗れるようになることが徐々に理解されはじめており、彼女は、声を上げることの大切さを実感しています。
◇ 日々の雑感 ◇
米ロのウクライナ停戦協議、トランプ大統領は成立に自信があるようです。もしかしたらガザのようにドンバス地方をアメリカが統治するなんてビックリプランを用意しているのではないでしょうか。個人的な憶測にすぎませんが。
Posted by cycleroad at 13:00│
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