2022年の厚労省による調査によれば、日本人の20.6%が慢性的な不眠を訴えており、その数は2009年からの推移を見ても明らかに増加していると言います。寝不足や睡眠の質に対する悩みは今に始まったことではないにしても、最近よく見聞きするのも確かでしょう。
世界的な比較でも日本人の平均睡眠時間は6時間18分と先進国最低レベルです。よく指摘されるのは、寝る前にスマホを見る人が多く、ブルーライトを浴びる形になるので脳が睡眠モードになりにくく、睡眠のサイクルが乱れたり自律神経の乱れになるというものです。

ただ、スマホの影響ではなくても、眠りが浅くて睡眠不足で朝起きられない、昼間に眠くなる、朝早く起きてしまう、夜中に何度も目が覚める、夜間頻尿がある、不快な夢を見ることが多い、足がムズムズして眠れない、睡眠時無呼吸症候群がある、そのほか数多くの症状があります。
それらを合わせて睡眠障害ということになります。人によってそれぞれですが、単なる寝不足感が続くだけではなく、著しい身体的苦痛があったり、精神疾患と診断されたり、日常生活や正常な身体活動や感情の機能を妨げるような深刻な事態となる事例もあるそうです。

もちろん、そのような深刻な場合は専門医の受診が必要ですが、病院に行くほどでないものの、よく眠れていないと自覚している人は多いのではないでしょうか。ベッド回りの環境を整える、就寝前にパソコンやスマホを使わない、カフェインは昼までにする、就寝が不規則でも朝は同じ時間に起きるといった対策もよく聞きます。
枕が合わないのではないかと悩む人も多いでしょうし、快眠のための機能を持った寝具のCMを見ることも増えた気がします。寝酒は良くないとか、ぬるめの風呂に入る、眠くなってから布団に入る、昼間眠い場合の昼寝は、2〜30分の短いものにするといったアドバイスもよく知られています。

睡眠障害も医学的な障害であり、症状が重い場合は治療が必要となります。検査方法もいろいろあり、治療も薬物療法や、精神療法・心理療法が一般的ですが、その他の身体的治療や認知行動療法などもあります。睡眠環境などの話でなく、専門的な治療を受けることになるわけです。
そこまで深刻な状態ではないものの、睡眠の不足や質の悪さを感じており、日中に倦怠感があったり、意欲低下や集中力低下・食欲低下などの不調を感じていて、なんとか改善できないものかと考えている人は多いかも知れません。これは日本だけに限らず、現代人の悩みと言えるでしょう。

さて、この睡眠障害について、
アメリカ神経学会が先月末、新しい研究を発表しています。2025年2月27日に発表され、正式には4月に開かれる米国神経学会の総会で発表される予定ですが、それによれば、身体活動が認知症や睡眠障害、その他の病気のリスク低下につながると言うのです。
これまでにも、このブログでは自転車の健康効果として、生活習慣病の予防や呼吸器・循環器系疾患の予防、精神的メンタル面での効果、ガンの予防、うつ病の予防など、さまざまな効果についての医学界の研究成果を取り上げてきました。くわえて、睡眠障害にも自転車が効くということになります。
自転車に限らず運動、中程度から強い運動ということになります。日中に座っている時間が長いほど、認知症や睡眠障害、その他の疾患を発症するリスクが高くなることが判明しています。認知症については以前も取り上げたことがありますが、そのほかの脳の疾患、睡眠障害にも有効だというのです。

研究者は英国の大規模データベースから、平均年齢56歳、73,411人のデータを調べ、7日間連続して加速度計デバイスを装着し、身体活動、活動に消費したエネルギー量、1日あたり座っている時間を測定しました。エネルギー消費量を定量化するために、代謝当量 (MET) が使用されています。
中程度から激しい身体活動とは、少なくとも 3METのエネルギー消費を伴う活動と定義され、ウォーキングや掃除は 3MET、サイクリングなどのより激しい運動は速度にもよりますが、6MET程度です。中程度以上の身体活動でエネルギー消費量が多い人は、少ない人に比べ睡眠障害の発症確率が有意に低かったのです。
いずれの病気も発症しなかった人々の中程度以上の身体活動による1日平均のエネルギー消費量は1キログラムあたり1.22キロジュールであったのに対し、認知症を発症した人々は0.85キロジュール、睡眠障害を発症した人々では0.95キロジュールという結果でした。

そのほか脳卒中を発症した人々では1.02キロジュール、うつ病を発症した人々では1.08キロジュール、不安障害を発症した人々では1.10キロジュールでした。座っている時間が長いほど、いずれかの病気を発症するリスクが高くなり、座っている時間が最も短い人よりも5%から54%も増加します。
これまでの研究の中には、参加者自身の活動レベルを報告してもらうものもありましたが、今回は標本数が多く、活動レベルを客観的に測定できる機器を使用しているため、この結果はリスク要因の評価や、これらの疾患の発症を防ぐための介入策の開発に影響を及ぼすだろうと研究者は述べています。
人々にライフスタイルの変化を促すことで、将来的にこれらの疾患の負担を軽減できる可能性があると考えられます。座っている時間が長く運動不足の人は、生活のなかに運動を取り入れることで、睡眠不足感の軽減や質の向上を感じられる可能性は高いと言えるでしょう。

ただ、運動しなさいと言われても、なかなか長続きしません。継続するためには運動としてではなく、例えば自転車通勤とか、毎日の買い物を少し遠いスーパーまで自転車で出かけるといった形で習慣にしてしまうのが有効です。その点でも、自転車での移動は有効と言えると思います。
疲れてぐっすり眠るというのではありません。3METは徒歩で20分程度、6METは自転車で10分程度です。毎日出かける場所へ自転車で10分なら続けやすいでしょう。それだけのことで睡眠不足感や睡眠の質が向上するなら、やってみようという人は多いのではないでしょうか。
もちろん10分移動すれば大丈夫ということではありません。こうした研究はリスクと確率の話ですから、必ず成果が上がるわけではありません。個人差もあるでしょう。でも、自転車に乗り始めれば楽しいので、もっと時間も伸びるはずです。寝不足感が緩和するか、試してみる価値はありそうです。
◇ 日々の雑感 ◇
ガザ停戦でもアメリカのハマスとの異例の直接交渉にイスラエルが反発、不協和音が生じています。当事者より前に出て取引するのがトランプ大統領の流儀なんでしょうが、ウクライナもガザも果たしてうまくいくのでしょうか。
Posted by cycleroad at 12:30│
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