March 12, 2025

科学的自転車レーン設置計画

一部で議論が巻き起こっています。


自転車レーンについてです。欧米の都市では近年、自転車レーンを拡充する動きが続いてきました。もともと自転車にフレンドリーだった都市だけではなく、クルマのレーンを減らして都市部への流入を減少させることで渋滞を軽減したり、温暖化ガスの排出削減につながることが注目されていることが背景にあります。

コロナのパンデミック時には、公共交通を敬遠する動きから自転車で移動する人が急増しました。クルマの交通量が激減したこともあって、各都市では急ごしらえの自転車レーンが多数設置されました。それを恒久的なレーンに改修する動きが広がったこともあります。

中長期的な視点においても、若い世代を中心に、郊外に住んでクルマで通うのではなく、都市部に住んでクルマよりIT機器に興味があって自転車で通う傾向が強まっています。IT企業などは人材獲得のため若い世代の集まる都市に進出するため、各州の中核都市はこぞって自転車フレンドリーさを競う傾向もあります。

渋滞する都市部では、実際問題として自転車のほうが速いことが往々にしてあります。温暖化対策から都市部へのクルマの流入を減少させるため、渋滞税のような形で課金するところも増えています。通勤をクルマから自転車に乗り換える人が増えたことも、自転車レーンの整備の拡大につながりました。

Toronto bike lanesToronto bike lanes

ただ、自転車レーンが拡充される一方で、レーン整備に反対する人たちもいます。多くは、自転車レーンのせいで渋滞が激しくなったと主張するドライバーです。レーン整備計画が中断・見直されたり、なかには既存のレーンの撤去を求める声もあります。

実は、こうした市民同士や行政との論争が起きている都市は少なくありません。欧米の自転車関連のニュースなどを見ていると結構目につきます。ただ、それらの議論はその都市ローカルな論点も多く、日本の読者には関心が薄いと思われるので特にこのブログでは取り上げてきませんでした。

各都市、各通りについての議論はそれぞれだと思いますが、ドライバーにしてみればレーンが邪魔で渋滞が増え、所要時間が増えることへの不満が多いようです。一方、サイクリストにしてみれば、レーンに違法駐車するクルマがあったり、レーン内を強引に走行するようなクルマもあり、レーンの安全性向上を求めます。

そのほうが交通安全には資するわけで、事故が減るのは確かでしょう。実際にレーンを高規格化して安全性向上を目指す傾向もありますが、そうするとクルマ用の空間が減り、自転車レーンに駐車できない違法駐車がクルマ用レーンに停めるので、余計に渋滞が酷くなって不満も高まるという構図があるようです。

Bike LanesBike Lanes

安全性の向上や自転車利用者の意向、都市部でのクルマ流入削減や温暖化ガス削減という意味では、自転車レーンの充実が求められる方向です。しかし、ドライバーにしてみれば、実際に渋滞が悪化している理由は、明らかに自転車レーンにあると見なします。板挟みの自治体としては難しいところです。

さて、そんな中で自転車レーンの整備計画に、科学的なアプローチを取り入れることで都市交通を最適化できると主張する人たちが注目されています。トロント大学ロットマン経営大学院の運営管理および統計学の准教授である、Sheng Liu 教授らのグループです。

彼らの研究は、都市の交通量、通勤者の移動データなどの既存のデータを使い、新しい自転車レーンを設計するための体系的なモデルを生成するというものです。このモデルによって、自転車レーンを整備した時の効果や弊害を予測し、レーン計画について意思決定するためのツールが提供できるというのです。

たしかに、これまで自転車レーンの整備計画は、予算の許す限りの大通りにレーンを設置していくというものでした。そして実際の現場に合わせて設置可能な幅や形状が決まり、なるべく広範囲に接続してネットワークにしていくというやり方が一般的だったでしょう。

bike lanesbike lanes

しかし、いざ整備してみたら問題が起きた、不満が続出したということも起きるわけです。予算の問題はあるにせよ、自転車レーンを都市に整備するか否かは議論になっても、どこにどのようなレーン設計で設置するのが科学的に合理的かという視点が乏しかったのは確かでしょう。

この研究のモデルでは、自転車レーンの設計と位置によって、交通量や渋滞がどのように変化するかを予測します。その中には、レーン整備によってどれくらい利便性や安全性が向上するか、それに伴いどれだけの人がクルマから自転車に乗り換えるかといった予測も含まれます。

従来はなかなか難しかった、こうした複雑系のモデルの構築と予測が出来るようになってきているわけです。その場所が便利で安全になるかではなく、全体として最適化できるかを具体的にモデリングし、評価をすることによって、科学的な自転車レーン計画が策定できるということです。

実際にバンクーバーやシカゴについて、市の都市計画担当者の協力を得てモデリングしています。特定の場所に何キロのレーンを追加すると利用者が何%増えて、渋滞によるクルマの運転時間が何%増加するといった推定がなされました。もちろん、計算上温暖化ガスの排出がどれだけ減るかもわかります。

Bike LanesBike Lanes

これまで目に見えなかった自転車レーンによるメリット・デメリットが定量化され数字でわかるというのは画期的でしょう。完成後にどのくらいの精度で当たるかはわかりません。しかし、恣意的なものではなく、あくまでデータを基にした統計的・科学的なアプローチによる予測結果には意味があると思います。

少なくとも、これまでのように、どこにどれだけの仕様のレーンを設置するかという議論なしに計画されていたのに比べれば期待できます。場合によっては、予算の一部は無駄になるといったことも明らかになる可能性があります。自治体としても市民に対する説明に説得力を持たせられるでしょう。

日本では、まだまだ本格的な自転車レーン整備という段階になく、気休めか思いつき程度に、ごく一部に設置される程度なので論外です。このようなレベルに進んでいる欧米の都市が羨ましい限りです。ただ、このような研究が進めば、日本でも自転車レーン導入の強力な論拠になっていくかも知れません。





◇ 日々の雑感 ◇

昨日は3.11、東日本大震災と福島第一原発の事故から14年でした。未だ3万人近い人が避難生活をしています。

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