March 27, 2025

人間を優先に考える社会基盤

毎年この時期に出される報告書があります。





世界幸福度報告書“The World Happiness Report”です。世界の幸福度とその向上の方法に関する、この分野では世界有数の出版物です。オックスフォード大学の“Wellbeing Research Centre”と Gallup 社、国連の持続可能可能な開発ソリューションネットワークなどと協力して世界幸福度報告書編集委員会が発行しています。

この報告書は、幸福研究への関心の高まりから発行されるようになりました。そのきっかけは、ブータン王国が、一般に豊さの指標となる国内総生産、GDPではなく、GNH(“Gross National Happiness”国民総幸福量)という尺度を打ち出したことにあります。

Photo by Christopher Fynn,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.Photo by Michael Reeve,licensed under the Creative Commons Attribution ShareAlike 3.0 Unported.

これを受けて2011年国連で、幸福:開発への総合的アプローチに向けてという採択がなされ、翌年に毎年3月20日が“International Day of Happiness”、国際幸福デーとなりました。世界幸福度報告書は、この記念行事の一環として毎年3月20日頃に発表されます。

世界の幸福に関連するさまざまなテーマについて分析した広範な報告ですが、やはり注目されるのは、世界幸福な国ランキングでしょう。世界各国の一人当たりのGDP、社会支援、平均寿命を始め、多くの指標から評価されるわけですが、今年の世界で最も幸福な国にはフィンランドが選ばれました。

World Happiness ReportWorld Happiness Report

以下、デンマーク、アイスランド、スウェーデン、オランダが僅差で続いています。何が幸福かについては主観的な部分がありますし、いろいろな議論があります。この報告書ではさまざまな観点が記述されていますが、この議論を書けば、とても紙幅が足りないので、興味のある方はリンク先で読んで下さい。

フィンランドは8年連続1位です。そのほかの上位も常連国で占められていますが、一見して北欧の国が並んでいることがわかります。4位までは北欧で、5位のオランダは西欧ですが、6位のコスタリカをはさんで7位には、やはり北欧のノルウェーが入っています。

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北欧諸国の幸福度が高いのは、一般的に知られています。各種の福祉給付や手厚い社会保障制度、低い汚職率、機能する民主主義や国家制度、市民の自律性や自由度の高さ、相対的に少ない貧困格差、教育や子育て面の充実度、国民相互の社会的信頼、自然へのアクセスが容易なことなどが指摘されるところです。

これらの理由に異論を述べるつもりは全くありません。ただ、このブログをご覧になっている方ならお気づきと思いますが、これまでこのブログで比較的多く取り上げてきた国、つまり自転車先進国、あるいは自転車王国とされる国々だということです。これらの国は相対的に自転車インフラが充実し、自転車に乗る人の多い国です。

World Happiness ReportWorld Happiness Report

上位の国の幸福度の高さの理由に、無理やり自転車の活用度を挙げるつもりはありませんが、全く関係ないとも言いきれないのではないでしょうか。幸せの直接の要因とは言いませんが、結果として上位を占めているこれらの国が、自転車にフレンドリーな国、乗る人の割合が高い国だということは否めません。

自転車が趣味の人は、もはや意識することも少ないかも知れませんが、そうでない人でも、たまに自転車に乗ると楽しいと感じることはないでしょうか。自転車に乗ると、幸福感を感じさせる化学物質、セロトニンが脳で分泌されることがわかっていますが、それだけではないでしょう。

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自転車は身体的な健康に貢献するだけでなく、メンタルにも良い効果を与えることは多くの研究から指摘されることです。不安や抑うつを低減したり、うつ病を防いだり状態を軽減したりすることもわかっています。睡眠不足を解消したり、生活の質を高めたりすることも無縁ではないはずです。

私が思うのは、これらの国が相対的に自転車インフラが充実し、自転車に乗る人に対して優しい交通政策をとっているということです。理念としてクルマ優先ではなく、人間を優先する考え方がベースにあります。このことが、住みやすさにつながっている可能性があります。

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自転車に乗っても、交通インフラがクルマ優先の思考で整備されていれば、危険に感じることも多いでしょう。クルマを優先し、速度や移動効率ばかり優先するような交通政策では、自転車に乗っていても危険で楽しくないことが多いに違いありません。自転車を環境負荷の軽減に役立てようという考え方とも相容れません。

自転車インフラに限らず、経済効率ばかり優先するのではなく、人間を優先し、人間に優しい社会のほうが、無意識であっても幸せを感じる人が多くなるのではないでしょうか。そう考えると、クルマ優先ではなく自転車インフラが充実していることは、結果的に幸福度と相関している可能性があると思います。

World Happiness ReportWorld Happiness Report

自転車王国と言われる国だから幸福度が高いと言いたいのではありません。さまざまな要素の中の一つという可能性はありますが、そんな単純なことではないでしょう。ただ、モータリゼーションで結果的に人間の命が軽視されてきた中、いち早く人命優先に転換したことが交通インフラに表れている国とは言えそうです。

ちなみに、このランキングで日本は147か国中55位です。全体としては中位より上ですが、貧しい国や紛争の絶えない国なども多い中、先進国の中では低いレベルです。北欧とは比べるべくもありません。もちろん、その原因にはいろいろな要素があるでしょう。

自転車にフレンドリーではないことが、自転車に乗っている人が多い割に日本の幸福度が低迷する要因などと言うつもりはありません。でも、道路がクルマ優先に整備されており、毎日のように人命が失われているのは確かです。そのあたりにも、実感として幸福度が高い国とは思えない一因があるのかも知れません。





◇ 日々の雑感 ◇

トランプ大統領が全ての輸入車への25%関税を正式発表、クルマ産業は裾野が広いですし影響が懸念されます。

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