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先日横浜で開かれたTICADアフリカ開発会議での発言です。
「こうして皆様方を日本にお迎えをして、テーブルを囲むことができます。大変うれしく思っております。もう仕事の話はやめましょう。疲れますから。大統領とか総理大臣とかやっておりますと、あんまり楽しいことはございませんで。そこで(岩屋毅)外務大臣、笑わない。楽しいことはそんなに多いわけではございません。」
自民党内では「石破おろし」が吹き荒れていますし、こだわっていた終戦80年の「石破談話」も出せませんでした。ウケ狙いなのでしょうが、この「楽しくない」が注目を浴びたのは、今年1月の施政方針演説で、「これからは一人ひとりが主導する『楽しい日本』を目指していきたい。」と発言したこともあるでしょう。

すなわち、「楽しい日本」を目指していた張本人が「楽しくない」と愚痴ってしまったことになるからです。石破首相の元で参議院でも少数与党となってしまい、選挙3連敗の責任を問われる中で、楽しくないのは本音でしょう。施政方針演説などもはや頭になかったのかも知れません。
1月の施政方針演説で「楽しい日本」を掲げた時にも、さまざまな声が上がりました。作家の故堺屋太一さんの考えに共感し引用したそうですが、この抽象的で観念的な方針に呆れたという声も少なくなかったようです。そもそも首相自身が、堺屋太一さんのこの言葉に当初は違和感があったと語っています。
「『強い日本』『豊かな日本』というのは理解できますが、『楽しい日本』とは何なのだろう、と。」「私が子供の頃、そこには今よりも貧しかったけれども、笑顔があって、お互いを尊重し合って、助け合う社会がありました。明るくて楽しかった。今の日本に欠けているものだと思います。」と述べています。

往々にして、子どもの頃など古い思い出は美化されがちです。単に子どもだから楽しかったのかも知れません。たしかに高度経済成長期は、豊かになっていく明日を信じて楽しかったのでしょう。しかし、それならば「豊かな日本」のほうがわかりやすく、受け入れられやすかったのではないでしょうか。
結局、この楽しい日本について、「強さ、豊かさといった先人が築いた功績の上に、世界平和の下、すべての人々が安心と安全を感じ、多様な価値観を持つ一人ひとりが、今日より明日はよくなると実感し、夢に挑戦し、互いに尊重し合いながら自己実現を図れる活力ある国家である。」と述べています。
制度改革と技術革新を通じた持続可能な成長を軸に据え、個人の挑戦を支援する社会とか、デジタル技術や新産業の創出を促進して「令和の日本列島改造」=地方創生2.0とか、賃上げと投資がけん引する成長型経済で人財尊重社会の実現などと述べていますが、いずれも楽しいと言うより豊かな日本を目指すように聞こえます。

つまり、「楽しい」というのが曖昧で、自身も何を目指すのか、具体的には明確になっていないように見えます。楽しいという感情は、それこそ人それぞれであり、多様な側面を持ち、解釈もさまざまです。政策の実現で楽しくなるかと言われれば疑問に感じる人も多いに違いありません。楽しい日本では具体性に乏しいのです。
首相が子供の頃は皆が笑っていたと言いますが、今でも笑っている顔は多く見られます。何が楽しいかは個人の価値観の問題もあります。なんとなく言いたいことはわかるけど、具体性やその実現したイメージ、訴求力に乏しく、曖昧なキャッチフレーズと感じます。
さて、楽しいは人それぞれですし、楽しくする方法はいろいろあると思いますが、楽しいならば、人は幸福を感じると言えるのではないでしょうか。その点で、興味深い調査がありました。自転車をサブスクリプション方式で提供するイギリス企業、
Swapfiets 社が発表した
調査結果(PDF)です。

欧州のメンタルヘルス啓発週間にあわせて発表されたものです。同社が2024年の持続可能性レポートをまとめるために、会員の4600人以上を対象としてアンケートが実施されました。それによれば、回答者の39%が自転車に乗るようになって幸福感が増したと回答しているのです。
30%以上がストレスが減り、活力が増し、気楽になったとも回答しています。利便性が増したとか、サービスに満足しているといった感想ではなく、幸福感が増したと感じているのです。サービスのお得感とかではなく、自転車に乗ることそのもののによる幸福感の増加を感じているという結果になっています。
より健康になった実感とか、渋滞からの解放とか、ストレスの発散など、いろいろな要素があるかも知れません。それに加えて、自転車に乗ることによる純粋な楽しさ、喜びということが指摘されています。実は、自転車に乗るのが楽しいということについては、昔から多くの識者が指摘するところです。

このブログでもいろいろ取り上げてきましたが、さまざまな角度から自転車による幸福感の研究が発表されています。例えば、脳内物質が分泌されるという研究もあります。よく聞く、β-エンドルフィンやドーパミンなどのホルモンとは、また別の脳内物質、「内因性カンナビノイド」によるとも指摘されています。
世界幸福度報告書による順位も注目されます。世界幸福度ランキングの上位には、首位のフィンランドに、デンマーク、アイスランド、スウェーデン、オランダが僅差で続いています。北欧の国が多いですが、実は7位のノルウェーも含めて、自転車先進国と呼ばれるような国が並んでいます。
もちろん、幸福度にはさまざまな要因があり、自転車の面だけではありません。ただ、自転車にフレンドリーな国、乗る人の割合が高い国が並ぶのは単なる偶然でしょうか。これらの国は相対的に自転車インフラが充実しており、交通面でクルマ優先ではなく人間を優先する国ということもあるのでしょう。

人それぞれの幸福感、幸福度の高い理由を分析するのは容易ではありません。住みやすさなどの満足度もあると思いますが、自転車に乗る人が多いのは確かであり、そうした生活で、純粋に自転車に乗る楽しさが影響している可能性もあると思われます。
自転車に乗る人なら、自転車に乗って純粋に楽しいと感じたことがあるのではないでしょうか。趣味のサイクリストなら、もはや意識することもなくなっているかも知れませんが、自転車に乗る楽しさには共感するはずです。実際に、古今東西そのことを指摘する人は多く、多くの研究でも実証されているのです。
ちなみに、自転車に乗って楽しいと感じたことのない人は、日本独特の遅くて重たい格安粗悪なママチャリの弊害が要因かも知れません。ママチャリが悪いとは言いませんが、きちんと注油されて異音などが無く、適切に整備された自転車に乗れば違ってくるはずです。

サドルの高さが低すぎるのも問題です。足が伸びない形でこいでいると力が伝わりにくく、辛くなります。タイヤの空気圧も低い人が多いと思います。空気をパンパンにいれて乗るだけでも、走行感が大きく違ってくるはずです。こうした点を見直せば、純粋に自転車に乗って楽しいという感覚が少しはわかってくると思います。
「楽しい日本」を実現するのは自転車だ、などと言うつもりはありません。人それぞれ楽しいことは違います。ただ、いろいろな研究や調査を見ると、日常で自転車に乗ることが楽しく、全体でみれば幸福感が増す傾向にあるのであれば、これを進めてもいいはずです。
経済面や雇用をはじめ、必要な政策は多岐にわたります。自転車関連の政策など、その優先順位は低いでしょう。しかし、特に日本の自転車走行空間の乏しさ、歩道での暴走、混沌とした自転車通行環境を改善するための自転車インフラの整備は、日常の交通安全と安心感に直結するわけで、決して無駄ではないはずです。

自転車走行環境が整備され、安心して安全に自転車に乗れる環境のある街は、海外でも人気が高くなっています。住みやすく、生活しやすい街の整備は居住者を増やし、若者が集まるためIT企業の誘致にも効果が高いと、海外では重視されているのです。日本は少し違うかも知れませんが、自転車に注目する自治体は増えています。
自転車インフラの整備、交通事故の減少、安全安心な自転車通行環境は、楽しい日本を実現するための、ごくごく一部の要素でしかないでしょう。ただ、身近な安心に加え、自転車に乗って楽しい、幸福感を感じる人が増えるとしたら、楽しい日本に少しは貢献するのではないでしょうか。
石破首相の「楽しい日本」が、具体的にわかりやすく、実感できる政策につながることを望みます。その中のごく一部として、市民が自転車に乗って楽しいと感じられる基盤の整備推進もあっていいと思います。実際には自治体ごととなり、首相の主張する令和の日本列島改造、地方創生にもつながるのではないでしょうか。
◇ 日々の雑感 ◇
東京都心では午前中から35℃以上となり連続猛暑日が10日連続で過去最長を更新、8月末なのに暑すぎです。