September 26, 2025

自転車乗りだけの為ではない

自転車レーンにも賛否があります。


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例えばアメリカでは、自転車レーンの整備が一貫して進められてきました。特にコロナを機に自転車を活用する人が急増したこともあって、応急的にレーンを設置し、その後正式なレーンに仕上げるような動きもあり、自転車レーンの拡大が支持されてきました。

ただ、ここへ来てそれを覆すような動きがあります。トランプ政権が、自転車や歩道向けの補助金を撤回すると発表したのです。理由は、クルマに対して敵対的な政策であるからというものです。アメリカ・ブルームバーグ通信の記事を引用します。

トランプ政権、自転車や歩道向け助成金を撤回−「自動車に敵対的」

既に認可された助成金も撤回、歩行者・自転車インフラに冷や水
共和党地盤でも需要増、地方の現実と政権の方針にねじれ

Trump Cancelsトランプ政権は今月、全米各地の地域で進められていた街路の安全対策や歩行者用トレイル、自転車レーンの整備に対する補助金を相次いで打ち切った。理由は一貫しており、「これらのプロジェクトは自動車向けに設計されていない」というものだった。

カリフォルニア州サンディエゴ郡で予定されていた自転車レーンを含む道路改良計画について、米運輸省の担当者は「車線容量を減らし、自動車にとって不利な『ロードダイエット』にあたる」として、約1年前に認可した120万ドル(約1億7700万円)の助成金を撤回。アラバマ州フェアフィールドでは、車線を歩道トレイルに転換する計画が「自動車にとって敵対的であり、車両通行容量の維持・増加を優先する運輸省の方針に反する」と判断された。

ボストン市でも、マタパンスクエア地区での歩行者・自転車・公共交通向け改善計画に対して「現行の自動車中心の道路構成を変える内容」だとして、以前交付が決定されていた助成金が取り消された。市内の交差点で安全対策を進める別の助成金についても、「車両の通行容量と速度を妨げかねない」として運輸省は支給を打ち切った。

トランプ大統領は、電気自動車(EV)の充電インフラやクリーンエネルギー関連プロジェクトへの資金提供を撤回するなど、バイデン前政権の政策を覆す姿勢を隠していない。

しかし、9日に米運輸省が発表した一連の助成金取り消し措置は、運転手のみの自動車利用を推進し、住民の移動手段を多様化させようとする地方自治体の取り組みを抑え込もうとする政権の強い姿勢をあらためて示すものとなった。

運輸省報道官は、コメントの要請に応じていない。

高まる需要

トランプ氏が今年1月にホワイトハウスに返り咲いて以来、公共交通の支持者や地方自治体の関係者の間では、政策転換の兆しが感じられていた。ダフィー運輸長官はニューヨーク州都市交通局(MTA)をはじめとする大都市圏の交通機関を繰り返し非難し、自動車中心に設計されたプロジェクトを優先する方針を示唆していた。

それでも、地方自治体や交通団体の関係者は、既に認可された助成金の取り消しに際して運輸省が用いた文言に驚き、歩行者や自転車利用者の安全向上を目的としたプログラムが標的となっているように見えることに強い懸念を示している。というのも、交通事故による負傷や死亡が増加傾向にある中での決定だったためだ。

今回の措置で政権が標的としているのは、州や郡が申請して獲得する「裁量型助成金」だ。ただ、歩行者や自転車の安全対策に対する今回の攻撃的な姿勢は、皮肉なことに共和党やトランプ支持層の多い自治体でもこうしたインフラの需要が高まっている点を考えると、矛盾していると、非営利団体「レールズ・トゥ・トレイルズ・コンザーバンシー」の政策担当副会長ケビン・ミルズ氏は指摘する。

Trump Cancels同氏はインタビューで、「自動車以外のインフラ開発をリベラルな政治と結びつける言説があるが、地方レベルでは実際にそのような対立は存在しない」と語った。たとえばフロリダ州は共和党が強いが、自転車や歩行者のための複合用途トレイルの整備計画は「非常に積極的だ」と述べた。

交通計画の現場では、自動車専用ではない代替型の交通プロジェクトが自動車の混雑緩和にもつながるとして採用される例が増えており、ミルズ氏は「そうしたアプローチの方が効果的な場合も多い」と話す。「今回取り消されたプロジェクトの方が、むしろその効果を発揮できたかもしれない」と述べた。

助成金の受給者は、必ずしも政府の決定を黙って受け入れているわけではない。

ボストン市長の報道官は電子メールで、「市は近隣の通りに歩道や照明を整備し、バス停を改善し、樹木を植えるために、これらの競争型連邦助成金を獲得した」と述べ、「連邦政府による今回の取り消しは、議会の明確な意図を再び無視するものであり、市は対応策を検討している」とした。

ニューメキシコ州アルバカーキ市中心部の鉄道建設にたずさわる当局者、テリー・ブルナー氏は落胆しながらも、前向きに受け止めている。トランプ政権が発足し、助成金が「見直し対象」となって以降、助成金契約の最終化に向けた作業はまったく進まず、実際に資金を受け取る段階に至らなかったという。さらに政権による連邦職員の大規模削減が重なり、運輸省の処理能力自体が低下していたと述べた。今後は、少なくとも他の資金調達先の検討に集中できると話す。

正直なところ、連邦政府はこの9カ月間ずっと私たちを無視し続けてきた」とブルナー氏。「前向きに捉えれば、連邦の手が離れたことで、むしろプロジェクトが少しは前に進むかもしれない」と語った。

原題:Trump Cancels Trail, Bike-Lane Grants Deemed ‘Hostile’ to Cars(抜粋)


トランプ政権は、これまで科学技術をはじめ、クリーンエネルギーやEV推進、途上国への助成、DEIプログラム、大学に対する補助など、さまざまな補助金・助成金・予算を廃止してきました。これまでの知見やコンセンサス、伝統的なスタンスを覆すようなものも少なくありません。

それを考えれば自転車レーンへの補助金廃止も驚くにはあたらないでしょう。そんなことにまでという見方もありますが、紙製のストロー廃止にまで口を出すことを考えれば、この点でも不思議ではありません。むしろ、自転車レーンや歩道の整備を推進すると打ち出したら、そちらのほうがよっぽど驚きます。

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アメリカ・ファーストを打ち出すトランプ大統領ですが、アメリカが将来的に不利になるような決定でも、いいと思えば躊躇はないようです。特に、前のバイデン政権の政策はことごとくひっくり返してきました。環境負荷の小さい自転車の活用より、クルマ・ファーストを打ち出すのは当然のように思えます。

科学的、論理的ではなく、政治的な意図による決定のようにも見えますが、自転車レーンや歩道の整備については党派とは必ずしも一致していません。記事にもあるように、フロリダ州はトランプ大統領のお膝元で共和党支持の州ですが、自転車レーンの整備には積極的です。

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州ごと、都市ごと、その場所ごとに特有な事情があるのも事実でしょう。実際にニュースなどを見ていると自転車レーンの設置で対立が表面化する場所は少なくありません。自転車レーンの整備を求める声が高まってデモが起きたり、逆にレーンに問題があると撤去を要求するような動きが起きることもあります。

どちらの言い分が正しいとか、分があると判断しきれない面があり、一概には言えないケースも多いでしょう。誰が見ても明らかというような説得力のある理由を示せればいいですが、そう簡単なことでもないようです。自転車レーンで、自転車に乗る市民だけがトクをするのは、けしからんという意見は根強くあります。

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例えばアンケート調査では、対象やサンプル数によっても変わってくることがあります。レーン整備をどう考えるかの意見の対立を助長するだけになりかねません。投票で決めるやり方もありますが、それも簡単ではありません。拮抗する中で決まると禍根を残すことになります。実際にそういう例もあります。

そんな中で、説得力があって、客観的な事実を、新しい技術を使って示そうとする動きがあります。アメリカ・ニュージャージー州にある、Rutgers University の研究グループは、対象の道路にコーンなどを使って、クルマが進入できないように分離された臨時の自転車レーンを設置して調査を行いました。

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この研究は“The Journal of Urban Mobility”誌に掲載されていますが、それによれば、研究者たちはコンピュータービジョン技術を使い、AIで映像を分析しています。それによって、通るクルマの速度の変化も解析しました。通る自転車ではなく、クルマの速度です。

直進したり右左折するなど、いろいろな動きがあるわけですが、総じてレーンの設置前と後ではドライバーが出す速度が落ちたというのです。クルマの走行速度が落ちれば、それだけ事故の件数が減り、事故被害が小さくなることは、他の多くの研究からわかっています。

同様の事故が起きたとしても、スピードが速いより遅いほうが被害は小さくなります。停止や回避で事故を防げる可能性も高まるでしょう。つまり、自転車レーンを設置して自転車利用者が安全に走行できるだけてなく、クルマの走行スピードを下げるという大きなメリットが確認されたのです。

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これにより、自転車利用者だけでなく、ドライバーや歩行者の命も救われることになると、Rutgers University の筆頭研究者、Hannah Younes 教授は述べています。クルマの事故が減ることで歩行者の死傷者も減ります。ドライバーにとっても事故が減れば、加害者になるリスクも減ることになります。

住宅街などで、ゾーン20などにより時速32キロ程度に抑制すると事故の犠牲者が大きく減ることがわかっています。スピードの抑制は事故を減らす上では望まれる方向と言えます。自転車レーンを設置することで、クルマの速度が抑制され、自転車利用者だけでなく、歩行者もドライバーも救われることになるわけです。

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これは自転車側とクルマ側を対立させるのではなく、どちらにもメリットがあると示せれば、自転車レーン設置の説得力のある理由になります。アンケート調査のような考え方の違い、解釈の曖昧なデータではなく、統計学的に有意性のある数字、根拠として客観的な判断に役立つことになるでしょう。

さらに、実際に自転車レーンを設置しようと計画する場所でテストをし、その結果を導くことが出来ます。場合によってはいろいろな結果が出るかも知れませんが、一般的に自転車レーンの設置が好ましいというような理由でなく、実際にその場所に設置した場合の効果が明らかになれば有力な判断材料になります。

これは一例に過ぎません。個々の場所にはローカルな理由で対立するケースもあるとは思いますが、やはり自転車レーンを整備していこうという方向が優勢に思えます。当面、連邦の補助金は得られないかも知れませんが、結局はクルマの通行より人間の命を優先すべきという方向になっていきそうです。





◇ 日々の雑感 ◇

ドジャース、4年連続23回目の地区優勝おめでとうございます。少しもたつきましたがポストシーズンも楽しみです。

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