.
.
.
.
.
自転車用品、例えばヘルメットもそうです。それまで自転車競技で使われていたカスクと呼ばれる革製のものだったのが、今のようなヘルメットが着用され始めたのは、意外に新しく、1970年代のアメリカだそうです。硬質ポリカーボネットのプラスチック外殻を持っていました。
単に硬ければいいのであれば、鉄兜のようなものも考えられますが、それでは必ずしも頭部の保護になりません。鉄だと変形しにくく衝撃には強そうですが、それだと頭部に衝撃が伝わってしまうので適度なクッション性も必要です。鉄だと重量も重くなってしまいます。

頭部に代わって衝撃を吸収したり力を分散するために、場合によっては割れることで衝撃を和らげる今のようなタイプになっていったようです。しかし、それで終わりではありません。さらに頭部の保護というヘルメットの役割を高度に果たすため改良が続けられてきました。
実際の事故の時には、例えばヘルメットを、ある程度の高さから垂直に落とすだけのような単純な衝撃とは限りません。いろいろな方向から力が加わるでしょうし、転倒して頭部が回転したり捻じれるなど複雑な動きになります。これら多様に加わる力に対し、いかに効果的に頭部を保護できるかという課題は簡単ではありません。
よく知られているのはMIPS、多方向衝撃保護システム(The Multi-directional Impact Protection System)です。斜めからの衝撃や、頭部が回転するような力に対し、その動きを緩和するように考えられています。このことが頭部、特に脳を保護するのに重要だとされているのです。( ↑ 動画参照)
もちろん、MIPSだけが正解というわけではありません。いろいろな考え方があり、各メーカーや研究機関などが試行錯誤を続けてきました。例えば、
Wavecel 社は、脳への衝撃や働く力を緩和するために、フォームではなくエネルギーを吸収して方向転換するグリッドを採用しました。

このシステムにより、標準的なヘルメットと比較して回転力を最大73%吸収し、それによって脳震盪のリスクを最大98%低減するとしています。この効果を科学的に説明するのは容易ではないと思いますが、同社は脳をタマゴの卵黄に見立てて説明しています。たしかにイメージは沸きます。( ↓ 動画参照)
こうした理論やそれを採用したシステムはいろいろあるわけですが、最近注目されているのが、“
RLS”というヘルメットデザインです。脳に伝わる衝撃により、伸縮したり剪断されるような力が加わるのは、斜め方向の衝撃や、それによって生じる回転させる力が主因だという考え方は同じです。
その衝撃を緩和し、吸収しなければなりません。このため、ヘルメットのシェルが外れてリリースされるような仕組みになっているのです。このことによって脳に向かって働く力を分散したり、そらすことが出来るのです。これによって、MIPS搭載ヘルメットより、さらに63%低減されると言います。
ただ、この方式を考案した経緯がユニークです。実は偶然の産物なのです。いろいろな形を試しながら試験をしていたわけですが、ある日、シェルが完全に外れてしまったのです。これは実験の中でありうることですから、特に問題になったわけではありません。研究者は気にもしていなかったと言います。

ところがテストの結果のデータを見て愕然としました。壊れてパーツが外れるという、いわば失敗だったにもかかわらず、このシェルが外れるという動作によって、大量のエネルギーを分散して放出することがわかったのです。怪我の功名というのは、まさにこのようなことを言うのでしょう。
このことに着想を得て、
RLS(Release Layer System) という方式が考案されました。ヘルメットの内側部分は、小さなボールベアリングで覆われています。その外側部分のシェルが衝撃を受けた際に、外れるようになっているわけです。これによって加わる力を分散し放出することになります。

このシステムは、まず
HEXR社が採用し、そのヘルメットに搭載されています。今後は、
Canyon社をはじめ、各社のヘルメットに使われる予定です。すでにこの新しいヘルメット技術、“RLS”はサイクリストの外傷性脳損傷、Traumatic Brain Injury (TBI)から保護する最も適切な技術の一つと評価されています。
ここに挙げたのは技術開発の一例にすぎません。今後も研究や製品改良が続けられていくでしょう。やはりヘルメットの一番重要な役割は頭部の保護です。そして単純に頭蓋骨が守られればいいわけではなく、脳への損傷を防ぐ必要があり、それをどのように実現するか、各社、各研究者がより良い結果を求め切磋琢磨しています。

事故はいろいろな状況があります。脳が保護されたとしても頸椎などが損傷することもあるでしょう。頭部の保護がすべてではありません。もちろん、ヘルメットで事故が防げるわけでもありません。しかし、少しでも製品による保護機能を向上させ、事故による不幸な結果を減らすべく、試行錯誤が続けられているのです。
◇ 日々の雑感 ◇
パレスチナ自治区ガザで戦闘が始まって2年、戦闘終結に向けイスラエルとハマスの協議はまとまるでしょうか。
Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(0)