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日本は欧米の自転車行政、道路行政を見習うべきと書きました。特にヨーロッパでは昨年、「欧州自転車宣言」が採択され、EU全体で自転車活用を推進する歴史的な宣言がなされました。もはや一部の自転車先進都市だけでなく、EU全体でクルマ中心の都市道路整備は転換され、自転車が都市交通の中心に位置づけられました。
日本人にはピンとこない部分がありますが、EUレベルでの合意として自転車インフラの整備が進められており、以前は自転車都市とは見られていなかったパリやロンドンでも自転車走行空間の整備が大きく前進しています。都市部ではクルマ優先でなく、自転車や歩行者、つまり人間を優先する道路行政に転換しているのです。

日本とは大きな差があるわけですがヨーロッパ、例えば以前から自転車先進国として知られていたオランダでも、実は昔から自転車先進国だったわけではありません。オランダは国土が平坦で自転車での移動に向いています。当然のように自転車を使うようになったのかと思えば、そうではありません。
いまや、日本の九州ほどの国土の全域を網羅するように自転車専用道が整備され、その延長は1万9千キロにも及びます。さらに、ほぼ全ての幹線道路に自転車レーンが整備されています。自転車レーン以外にも、サイクリストに対する数々の配慮が行き届いていることについて、このブログでも過去に何度も取り上げてきました。

第二次世界大戦以前も、比較的移動に自転車がよく使われているほうではありました。しかし、戦後オランダでもモータリゼーションの波が押し寄せ、クルマが急速に普及しました。ヨーロッパの他の国と同じように、オランダ国内の道路にもクルマがあふれるようになり、自転車は隅に追いやられることになります。
今のような自転車インフラも全く整っておらず、オランダでも交通事故による死者数が急増し、自転車に乗るのが危険になります。日本では交通戦争と呼ばれましたが、オランダでも深刻な社会問題となっていました。この深刻な状況に反発した市民が社会運動を起こすようになります。

交通事故による死者数の急増は深刻なレベルでした。さらに大気汚染や渋滞も酷くなりました。そこにオイルショックなども重なったため、クルマを中心とした道路整備にまい進するヨーロッパの他の国を横目に、いち早く自転車を重視し、自転車インフラを充実させる方向へ舵を切ったのです。
もちろん、一朝一夕に自転車走行環境が整うわけではありません。その後も何十年という変遷や試行錯誤の結果、国家が自認する今のサイクリング重視、自転車王国としてのオランダが出来上がりました。何十年にもわたる市民の活動によって、勝ち取ってきた環境と言うことも出来るでしょう。

ひるがえって日本を見ると、同じように戦後の高度経済成長期のモータリゼーションやオイルショックはありましたが、オランダとは違い、クルマ優先をそのまま押し通しました。そして、昭和53年(1978年)の道交法改正で、自転車はなんと歩道走行させるようにしたのです。
今でもそうですが、自転車が歩道を走行するなんて世界的には全くの非常識です。海外から日本を訪れた外国人は、歩道の整備もされていないようなアジアやアフリカの途上国かと、その野蛮さに驚きます。日本でもそれまで自転車は車道走行が当たり前であり、そう義務付けられていたにも関わらず、歩道走行が強行されたのです。


当時、この非常識な政策に対する非難は多く、再三にわたって『これは緊急避難的政策である』との国会答弁がなされたと記録にあります。道路整備を急ぎ、すぐに本来の状態、すなわち車道走行に戻すはずでした。ところが政府はそれを怠り、緊急避難を半世紀近くにわたって続けてきたのです。
人々も、歩道走行が当たり前のようになってしまい、長年にわたり国土交通省や自治体は歩道上に自転車通行帯を整備するという非常識なことを行ってきました。ようやく、平成23年(2011年)になって、国土交通省と警察庁が車道走行の原則に戻し、自転車レーンも車道に設置していくと方針を大転換したのです。

さらに令和元年(2019年)になって、運用の手引きが出され、遅々とした歩みではありますが、政府としても、自転車の活用ということを具体的に示し始めました。つまり、自転車の歩道走行は長年にわたる行政の怠慢以外の何ものでもなく、途上国並みの野蛮な状態が定着してしまったのです。
歩道走行の何が悪いかと言うと、人々は歩行の延長のような感覚で自転車に乗るようになります。逆走、危険なスピード、一時不停止、道路の無造作な横断、ながらスマホも全く頓着しません。歩行する感覚です。それが人々の自転車の法令の無視、マナーの悪さ、自転車走行の混沌・無秩序状態という土壌をつくってしまいました。

言ってみれば、この自転車の無法状態は、行政が自ら作り出した事態です。ここが決定的にオランダと違うわけで、日本は道を誤ったため、今のヨーロッパとの違いが生まれたのです。そして長年続けてきてしまったため、これだけの差が生まれてしまったことになります。
来年から自転車に反則金制度、青キップが導入されますが、行政は自らの間違いを棚に上げて、無法状態を正すために反則金でどしどし摘発しますというのは、長いスパンで見たらマッチポンプと言われても仕方ありません。自分で招いておいて、今更取り締まりを強化するというのは、本当は筋が通らない話です。

いま、自転車で歩道を通ったら青キップを切られるのかと懸念が広がっています。長い間、歩道を広げて、そこに自転車通行帯を設置するような道路整備を行ってきた結果、多くの人は歩道走行が当たり前になってしまい、今さら車道走行と言われても怖いと感じるのは、よくわかります。実際に危険な箇所はたくさんあります。
もう一つ問題なのは、日本で自転車といえばママチャリだと思っている人が大多数です。歩道走行という特殊な状況に特化して発展してきたのがママチャリです。足つき性がよく、太いタイヤで低速での安定性には優れますが、重くて遅くて快適と感じない人は多いでしょう。坂を上るのも大変です。

ただでさえ遅い自転車ですが、さらに歩道で歩行者を縫うように走るのではスピードも出ません。つまり時間がかかり遠くまで行けません。日本で自転車に乗る人の多くが近所での買い物や最寄り駅までの通勤などです。ヨーロッパでは都市部の交通手段の中心ですが、日本のママチャリは都市交通の手段とは見られていません。
子どもの乗り物とみる人も多く、交通手段の中心はクルマであるという固定観念があります。ですから、自転車を中心になんてナンセンスということになります。未だに道路はクルマ優先という考え方が主流なのは、ここにも原因があるわけです。自転車レーンの整備など邪魔なだけと考える役人もたくさんいます。

こうした要因が絡んで、自転車の通行が無秩序になっているのが今の日本です。悪いスパイラル状態にはまっており、これを正すのは容易ではありません。しかし、ここから是正していかなければなりません。そうでなくては日本はヨーロッパのような人間優先の安全な都市にすることは出来ません。
今回、青キップを導入し、自転車走行のマナーを正し、法令遵守させることに着手しました。ただ、今のままでは車道走行は難しい箇所も多く、なかなか守られないでしょう。すると相変わらず歩道走行になって、法令は守られず、自転車本来のポテンシャルは生かされず、自転車が都市交通と見なされない悪循環は断ち切れません。

ですから、早急に車道に自転車の走行空間を整備する必要があります。車道上の自転車レーンを通行させ、逆走や信号無視などを取り締まっていくならば、走行秩序が出来上がっていくことが期待されます。歩道走行と比べて格段に所要時間も減り、渋滞にかからない利点も発揮され、実用的な移動手段として使う人も増えるでしょう。
こう言うと日本は道路が狭くて無理だなどと言われます。国土交通省の調査によれば、道路の拡幅などを伴わずに、すぐにでも車道に自転車レーンを整備できる幹線道路、主要道は8割に上ることが明らかになっています。さらにヨーロッパのように、狭かったらクルマの車道を減らして整備すればいいのです。
車道上の自転車レーンを走行するようになれば、自然と秩序も出来上がります。一人だけ逆走したり、信号無視や一時不停止などをしていると走りにくいので、流れに沿って走るようになります。このあたりは、それこそオランダあたりに行くと、その秩序が形成されている様子が理解できると思います。
自転車本来のポテンシャルも理解され、遅いママチャリばかりが自転車ではないと気づき、最寄り駅までではなく交通手段としての自転車という認識も広がっていくことになるでしょう。そこまでいけば、今のヨーロッパの都市交通政策の利点も理解されるはずです。

今のようにクルマ優先でクルマの便宜ばかり図るのはおかしいと気づくでしょう。クルマが優先ではなく、人間優先、人命優先が当然だと思うはずです。そもそも都市部でのクルマ優先はクルマの集中で渋滞を招き、交通事故が多発し、無理があるということも理解できると思います。
来春の青キップ制度導入により、今の日本の状態が良い方向に向かうかは予断を許しません。しかし、どこかで負のスパイラルを断ち切っていかなければならないのも確かです。そこで青キップ導入に併せ、早急な自転車走行空間の整備が求められます。その上で車道走行を徹底し、自転車通行の秩序を確立させる必要があります。

これで本来の自転車の活用が推進できます。それにより都市交通としての自転車の活用の利点や、クルマの車線だけを増やしても無意味と理解され、ヨーロッパのような人間優先の合理的な都市交通政策が実現できるでしょう。ヨーロッパに少しでも追いつくために、自転車インフラの早急な整備が必要不可欠だと思います。
◇ 日々の雑感 ◇
トランプ大統領はウクライナにロシアに有利な和平案の受け入れを迫っています。戦闘さえ止めばいいようです。