.
.
.
.
.
今国会でも審議されたOTC類似薬の患者負担引き上げとか、昨年も紛糾した高額療養費制度の改定など、膨張の一途をたどる医療費を削減するべく、さまざまな制度改正が検討されています。社会保障費の中でも医療費が占める割合は高く、日本の国家財政の持続性という観点からも非常に重要な課題です。
こうした制度改正以外にも、年齢を決めて特定の疾病の予防接種やワクチンの無料接種を進めたり、公費による特定健康診査、がん検診などの受診を呼びかけるなど、国や自治体は国民の健康増進に注力しています。国民の福祉向上の観点もありますが、少しでも国民医療費を少なくするためです。

国民一人が生涯に支払う生涯医療費は平均で2700万円を超えます。このうち約85%は医療保険から支払われることになります。これを上記のような施策によって少しでも削減できれば、全体では大きな金額となります。国が財政的観点からも国民の健康増進に躍起となるのは当然でしょう。
日本は世界に誇る国民皆保険という制度があるわけですが、それを維持するため、保険料を国民が負担できるようにするためにも医療費の低減は重要です。日本のように社会保険方式ではなく税方式の国もありますが、いずれも医療費の増大を抑えるのは国の重要な課題となっています。

ただ、その方法についてはいろいろな考え方があります。国民一人ひとりが健康になり、医療費が少なくて済めば国全体では大きな節減になるというのは一緒ですが、国民に自らの健康のための取り組みを促すための方法は、予防接種やワクチン、健康診査だけではありません。
イギリス・スコットランドでは、16〜74歳の82,297人を18年間追跡するという大規模な疫学調査を行い、国民の健康を増進するための方法を探りました。入院、死亡、処方箋の記録などを健康状態や人口統計学的特性や社会経済特性を調整するなどして、さまざまな健康上の成果を分析したのです。

結果は医学誌“
BMJ Public Health”に掲載されていますが、導かれた結論として
自転車通勤が有効とわかりました。これまでにもさまざまな研究により自転車が健康にいいという報告はたくさんありましたが、ここでも自転車通勤という結論だったのです。
自転車通勤する人は、全体と比較して全死因の死亡リスクが47%低下するという大きな数字です。あらゆる入院リスクは10%減、心血管疾患による入院リスクは24%減、がんによる死亡リスクは51%減などと結果が出ました。徒歩による通勤者もリスクは低下しますが、概ね10%未満と自転車のように大きくありませんでした。

この手の疫学調査で単に「有酸素運動をする人」ではなく「自転車通勤」となるのは、定期的・継続的に自転車に乗っている人ということになるからです。週末に趣味で自転車に乗る人の健康にも寄与すると思いますが、比較調査の都合上、自転車通勤をする人という括られ方をするわけです。
逆に言うと、自転車通勤は多くの人にとって毎日運動するために実用的で持続可能な方法だと研究者も認めているのです。他の運動が悪いわけではありませんが、時間や労力を別途必要とする他の運動と比べ、通勤という必要な移動とフィットネスを組み合わせる形になるので、忙しい現代人には理想的な選択肢としています。

そのほか、不安やうつ病、精神疾患の薬の処方リスクが減るという効果も指摘されています。もちろんこの結果、すなわち自転車がメンタルの健康にもいいことは、以前から知られていたことであり、自転車通勤者が実感していたことでもあります。新しい発見というわけではありません。
しかしこのスコットランドの8万人超の長年にわたる追跡という大規模な疫学調査で、自転車通勤の健康効果について、より明確な確証を得られたのです。これにより、自転車レーンなどのインフラ整備に多額の投資、年間750億円という資金を投入する政策の正当性を主張できるわけです。


自転車インフラの整備により交通事故の減少も見込めるでしょうし、クルマからの乗り換えで温暖化ガスの削減効果も期待されます。家計にとっては交通費の削減にもなります。
スコットランド政府は、環境政策や国民の福祉に寄与するという面もありますが、医療費の削減による国家財政のメリットが大きいと見ているのです。
日本では今般青キップが導入されましたが、同時に自転車のインフラ整備に力を入れるべきでしょう。より安全に走行できれば、特に都市部では渋滞回避の観点からも自転車の活用が進むはずです。自転車通勤、クルマから乗り換えるニーズも確実に増えるに違いありません。交通事故防止を含め、国民のニーズにも応えるものです。


OTC類似薬の患者負担引き上げとか、高額療養費制度の改定と違い、すぐには効果が見えにくく、短期的な効果は期待できません。健康には良さそうでも医療費の削減にまで結びつくか疑問かも知れません。スコットランド政府もそうでしたが、大規模調査により確実に医療費の削減効果があることが明らかになっているのです。
同様の調査は他にもあり、ヨーロッパ各国が自転車インフラの整備に力を入れています。日本ではこれから調査をするのではなく、これらを根拠に自転車インフラ整備に取り掛かるべきです。事故防止や罰則強化だけ先行することへの疑問や不満に応える意味でも、今こそ自転車走行空間の整備に乗り出すべきではないでしょうか。
◇ 日々の雑感 ◇
太平洋沿岸に津波注意報が出されました。フィリピン付近の地震で揺れておらず気づいていない人もいそうです。
Posted by cycleroad at 13:00│
Comments(0)