July 17, 2026

新発想の自転車インフラ整備

日本は諸外国に比べて遅れている部分があります。


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いろいろあると思いますが自転車インフラ、自転車走行空間の整備もその一つではないでしょうか。今般の自転車の青キップ導入で車道走行の原則が意識されることになりましたが、車道での自転車走行空間の乏しさを改めて痛感した人も多かったに違いありません。危険で走れないという声も多くなっています。

欧米などに行くと、都市にもよりますが自転車インフラが整備されています。自転車が車道走行するのは世界共通の常識であり当たり前のことです。自転車が歩道を走行している国なんて日本くらいです。日本に来たインバウンドが、その野蛮さ、危険さに驚くのも無理はありません。

Velo Tunnel QuebecVelo Tunnel Quebec

日本人は、長年それが普通でしたので特に違和感は無いと思います。しかし、私なども経験しますが、ある程度の期間、海外に滞在して帰国すると、歩道走行の自転車が危険に感じて仕方ありません。海外では安心して歩いていたのでそのギャップに驚きます。日本は異常な状態であることに改めて気づきます。

国土交通省と警察庁が半世紀にわたって行ってきた間違った道路行政により、無駄に広い歩道や歩道上に線を引いたナンセンスな通行帯など、役に立たない自転車インフラであふれています。ここへ来て、一般の人からも自転車インフラの整備が必要だとの声が上がるようになってきましたが、現状ではお寒い限りです。

Velocite corridors

欧米では自転車の走行空間の確保だけでなく、最近はそのグレードも上がっています。ポールなどで物理的に仕切った安全性の高い自転車レーンも増えています。以前からの傾向でしたが、コロナのロックダウンでクルマの通行量が極端に減った際、臨時に自転車レーンを拡幅した措置が恒久的なレーンにつながった例も多いようです。

さて、欧米ではハイグレードな自転車レーンの整備が進む中、さらにその先を目指す構想もあります。カナダのケベック州は、2024年に全長150キロに及ぶ大規模な自転車道、“Velocite corridors”というサイクリングネットワークを整備する計画を打ち出していました。

Velo Tunnel Quebec

今回、その計画を大幅にグレードアップさせる構想が持ち上がりました。“Bike Tunnel Quebec”です。なんと専用の自転車道を地下に設置しようというのです。ケベックシティ広域圏全体に広がる全長150キロメートルの地下自転車ネットワークを構築するというものです。

ケベック州の冬の降雪量は多く、雪の吹き溜まりや路面凍結、冷たい雨など自転車で移動するには厳しい環境となります。もちろん、そんな中でも自転車に乗る猛者もいます。最近はファットバイクなども増えました。しかし、一般的な人が通年で自転車通勤などをするのは困難になります。

Velo Tunnel Quebec

例えばコペンハーゲンなどでも冬季は雪が降るので、行政は早朝に優先して自転車レーンの除雪をします。ただ、手間や費用がかかります。地下自転車道なら除雪の必要はありません。冬季以外でも雨、雷、嵐などの厳しい気候条件の時がありますが、強風も含めていつでも変わらず通行できるのは大きなメリットでしょう。

さらに、トンネル内に信号はありません。交差点がないので事故のリスクは限りなく小さくなるでしょう。進路変更には高速道路のようなインターチェンジが使われます。通常の自転車、電動自転車、子供用トレーラーなどは利用可能ですが、歩行者、ジョギングをする人、スケートボーダー、ローラーブレードなどは通行不可です。

Velo Tunnel Quebec

自転車レーンがあると、平らで快適なため、そこを歩いたりジョギングする人が出ます。ローラーブレードをする人も集まってきます。しかし、これらは速度が違いますし、混在すると危険です。ですから自転車のみ、あくまで自転車専用道なのです。

これは交通インフラとして位置付けられるものです。クルマを使うものではないので省エネであり、クルマを売り払って自転車に乗り換えることも可能にします。つまり環境負荷を低減するインフラでもあるわけです。一年中、安定して通行できる自転車道は、十分に交通インフラとして役立つでしょう。

The Boring CompanyThe Boring Company

この構想、アメリカのイーロン・マスク氏が設立したトンネル建設・インフラ企業の“The Boring Company”に触発されました。同氏はロサンゼルスなど大都市や周辺の交通渋滞を不満に思っており、トンネルを掘ってテスラのEVを走らせる構想から、この会社を設立しました。

実際に、アメリカ・ネバダ州ラスベガスで、“Vegas Loop”と呼ばれる地下の交通システムを開発・運営しています。こちらはEVですが、トンネルについては同社の最新技術を使えば十分に安く掘れるはずです。これによって地下自転車道を掘削することを考えたのです。

Velo Tunnel Quebec

構想では、直径3.6メートルの2車線の自転車専用トンネルを掘ります。従来の道路トンネルや地下鉄などと比べて大幅に小さいため、それらと比べてはるかに低いコストで建設できます。照明と空調、防犯カメラは設置するとしても、レールも電車も運転手も駅員も必要ないので、ランニングコストも少なくて済みます。

試算では全長150キロの地下自転車ネットワーク全体で約112億米ドルになります。巨額ですが、他の交通インフラに比べれば小さくなります。さらに光ファイバー網、電力インフラ、あるいは物流ロボットの通行路などと併せて設置するならば、よりコストは小さくて済むはずです。

Velo Tunnel Quebec

信号も無い、止まる必要も無い、雨も雪も風も関係ない、自転車乗りにとっては夢のような自転車道ネットワークです。ただし、これは政府や行政機関の正式な構想ではありません。ケベック州在住の、Philippe Leblond 氏による、今のところ市民主導のアイディア、提案にすぎません。

すぐに実現する計画ではありません。しかし、技術的・経済的な検証を行うに足る、十分に実現可能な構想だと主張しています。単なる自転車インフラとしてだけでなく、竜巻や熱波、嵐などの災害の避難所になったり、緊急の輸送網などとしても活用できるに違いありません。少なくとも試験的に一部でも設置する価値はあるでしょう。

Velo Tunnel Quebec

Philippe Leblond 氏は技術者でも専門家でもないので、このまま実現するとは思っていません。しかし、自転車インフラの将来について一石を投じ、より広範な議論を巻き起こすことを狙っているのです。地上に設置する計画を地下を使うことで得られるメリット・デメリットを比較する価値はあると考えています。

日本でも自転車インフラの整備が求められています。ただ、主に道路が狭い、自転車レーンの設置余地がないといった理由で一向に進んでいません。それならば、一足飛びに地下自転車道を整備するというのはどうでしょう。地下ならば道路幅が足りないといった懸念はありません。

Velo Tunnel Quebec

もちろん、そんな予算は無いとの反発もあるでしょう。しかし、“Bike Tunnel Quebec”に倣って直径3.6メートルのトンネルならば費用は軽減されます。さらに単独ではなく、日本の街で景観上、地震の時の停電、救援の道路をふさぐ懸念のある電柱の地中化と併せて整備すれば、さらにリーズナブルな費用になるでしょう。

地下の構築物は地震に強いので、震災時の物流インフラにもなります。富士山が噴火しても降灰の影響は及びません。さらに台湾有事などが懸念される中、ミサイルに備えるシェルターが日本ではほとんど未整備と言われます。これはシェルターにも使える可能性があるでしょう。台風などの災害避難所としても使えるかも知れません。

Velo Tunnel QuebecVelo Tunnel Quebec

Velo Tunnel QuebecVelo Tunnel Quebec

電線や光ファイバーなどのインフラと併せて整備すれば費用逓減になるだけでなく、今後予想される物流での人手不足に対応して、無人自動走行ロボットによる宅配などのインフラとして、例えば自転車道の下の部分に専用の通路を整備することも考えられるのではないでしょうか。

地下空間は一般的に温度が一定になるので、夏は涼しく冬は暖かい空間になります。夏の熱中症対策を踏まえた自転車インフラになります。快適に走行できますし、地下の自転車道となれば、世界の最先端にもなりますので、インバウンドに対する観光資源という点でも役立つでしょう。

Velo Tunnel Quebec

東京の地下などは地下鉄等で空間が足りないという話もありますが、地下鉄を新たに通すわけではありません。直径3.6メートル程度です。地下鉄と違って自転車が通るわけですから、多少のアップダウンや左右に曲がっても大丈夫、融通も利くはずです。

近年、下水道インフラの劣化が全国で進んでおり、陥没事故なども起きています。水道インフラ補修も必須とするならば、それと併せて地下のサイクリングネットワークを構築すれば、工事費の節約にもつながるでしょう。他のインフラとの地下共同溝として同時に整備する手もあります。

Velo Tunnel Quebec

こうして考えてくると、地下自転車道のメリットはいろいろあります。単独で考えると地下の自転車道なんて費用的にナンセンスにも思えますが、必ずしもそうとは限らないのではないでしょうか。一挙に日本の自転車インフラを飛躍させます。少なくとも検討の余地はあるのではないでしょうか。


東京の巨大地下網 101の謎
森岡 知範ほか
宝島社
2018-07-26



◇ 日々の雑感 ◇

全国各地で猛暑日続出、いよいよ本格的に暑くなってきました。自転車だと気づきにくいので熱中症に注意です。

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