September 06, 2026

減少でなくゼロを目指すべき

多くの人が死亡しています。


交通事故です。例えばアメリカ・ニューヨーク市では2026年の上半期に99人の人が交通事故で亡くなっています。2日に1人のペースです。災害などが起こり、一度に多くの命が失われると大きく報道され注目を集めますが、半年で99人も十分に大きな数です。それもニューヨーク市だけの数字です。

今年ニューヨークでは新しい市長が誕生し、民主社会主義を標榜する民主党の政治家だったため、共和党の連邦政府との対立が注目されました。市内の家賃の値上げを凍結し、バスや保育を無料にするなどの政策を掲げて支持を集める一方で、批判する人たちもいます。

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批判はいろいろありますが、その一つ交通安全を推進する団体は、まだビジョン・ゼロ計画を公表していないことを指摘しています。これは歴代の市長が慣例的に就任した際に発表しているものですが、この面について及び腰なのか、ビジョン・ゼロに向けた取り組みを示していないことに抗議しているのです。

相変わらず多くのニューヨーク市民が交通事故で亡くなっている中で、市は市全体の道路安全戦略を提示していないことが批判されています。先月は5日間で4人がクルマにひかれて亡くなりました。うち3人はサイクリストでした。これをきっかけとしたサイクリストによる抗議活動も起きています。

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ダイ・インです。参加者が地面に横たわり、死体のようにふるまうことで抗議の意思を示すものです。ニューヨーク市に対し、交通安全の包括的計画を策定するよう求めました。自転車レーンの整備やその安全の確保も求めています。これは日常的に自転車に乗る人にとって、まさしく生死にかかわる問題だからです。

単に短期的に自転車事故が多かったからではありません。自転車利用者の死亡者数は昨年からほぼ倍増しています。自転車だけではありません。2026年上半期にクルマやトラックとの事故によって死亡した子どもの数は、昨年同期と比べて50%増加しているのです。( ↓ 動画参照)



亡くなった自転車の3人は、仕事中や通勤時に落ち度がないのにクルマに命を奪われた勤勉なニューヨーカーでした。遺族は深い悲しみに暮れています。本来、ビジョン・ゼロの考え方からすれば、こんなことはあってはならないと主張します。防げた事故でもあり、交通事故からニューヨーク市民を守る計画の策定を求めているのです。

ビジョン・ゼロは、道路交通システムにおける死亡・重傷事故を最終的にゼロにすることを目指し、世界各国が取り入れている交通安全哲学です。人が移動するというだけで、死亡したり重傷を負ったりすることは倫理的に決して許容できないという考え方なのです。

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これだけクルマ交通が発達した中で、ある程度の犠牲者が出るのは、やむを得ないと考えがちです。それはゼロに越したことはないが、ゼロにするのは無理ではないかと考えるのが問題です。交通システムの中に不備や問題が隠れており、事故で人が死亡しないシステムになっていないのです。

例えばクルマ優先の考え方です。経済効率を考えてクルマを優先する交通システムが構築されています。しかし、経済効率のために、ある程度の人命の損失はやむを得ないと考えるのが間違っていると主張しているのです。個人のミスで事故は起こりえますが、それが人命を損なわないシステムであるべきなのです。

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今回、ダイ・インを呼び掛けた“Transportation Alternatives”はニューヨーク市をクルマ中心の考え方から取り戻し、街路を安全で持続可能かつ公平な、歩行者、自転車利用者、公共交通機関利用者のための場所、集いの場、そして人々が活気にあふれる場所へと変革することを使命としています。

日本でも、内閣府が交通事故ゼロを打ち出しています。『人と車両が空間をシェアしながらも、安全で快適に移動や滞在ができるユニバーサルデザインの道路の整備により、交通事故のない生活空間の形成を目指す』と明記しています。しかし、交通事故ゼロが程遠いことは指摘するまでもありません。

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ゼロにするとの理想は掲げていますが、それを実現するために必要な「クルマ優先」の全面的な見直しには至っていないと言わざるを得ません。個人的には、クルマによる交通事故での死亡という悲劇がいわば他人事で、人々にあまり痛切な問題としては伝わっていないことが背景にあるのではないかと思います。

日本の高度成長期に公害問題が起こりました。大気汚染や水質汚濁、土壌汚染、騒音・振動、悪臭、地盤沈下といった深刻な問題が起きて大きな社会問題となりました。リアルタイムでは知らない世代も多いと思いますが、水俣病、新潟水俣病、四日市ぜんそく、イタイイタイ病などの公害病も発生しました。

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それらの公害病の深刻な被害は大きく報道されました。激しい中毒症状で痙攣して苦しむ人や、痛い痛いと言いながら死んでいく人を見て、心の痛みと大きな怒りが市民の間にも広がりました。政府も対策や規制の強化を迫られたわけですが、誰が見ても公害は撲滅すべきだというコンセンサスがあったのだと思います。

この公害問題は、言ってみれば「工場の操業優先」「製造業の業績優先」が招いた結果と見ることもできるでしょう。高度経済成長期ですから、工場が出す多少の問題、不都合な面に目をつぶってでも生産を優先し、経済成長を優先したことによって起きた悲劇だったわけです。

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しかし公害問題では、公害病の悲惨な被害が映像で報道され、国民は大きなショックを受けました。すぐに解決したわけではありませんが、政府も徹底的な対策を迫られ、工場の操業を止めたり、環境汚染に対する厳しい規制を設けるなどして、「工場の操業優先」でなく「人命優先」にシフトしたわけです。

この公害問題と比べて交通事故の問題では、あまりその重大さが意識されなくなっています。当然ながら、個々の事故で死亡した大勢の犠牲者がいて、悲痛な遺族がいます。しかし、一部を除いて個々の事例がいちいち詳しく報道されることはないため、なかなかその沈痛さが広く市民に伝わっていない面があると思うのです。

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交通戦争と呼ばれた時代には、もっと危機感もあったでしょう。しかし、公害問題のように「工場の操業優先」を全面的に見直したようには、「クルマ優先」を全面的に見直し、「人命優先」とはなっていません。残念なことに、交通死亡事故は相変わらず起きています。

その犠牲者は多いものの、個々の事故はニュースとして流れるだけです。あまり悲惨な映像が流れることもないので、深刻な問題として市民に認識されなくなっているのではないでしょうか。市民としても、もはや感覚が麻痺してしまい、交通事故が起きることに違和感が無くなっているのでしょう。

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クルマを無くせと言っているのではありません。しかし、「クルマ優先」は見直すべきです。ビジョン・ゼロでも主張されるように、本来クルマの走行が優先され、人命が失われるようなことはあってはならないのです。政府は、一応交通事故ゼロを目指すとしていますが、是が非でも達成するといった行動は見られません。

日本では市民にも、危機感の乏しい部分があります。ニューヨークのダイ・インのような抗議活動が起こることもありません。抗議活動の仕方については、日米の国民性の違いもあるのでしょうが、政府に交通事故ゼロを迫る強い意識も薄いのが実際のところでしょう。

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自転車インフラについて言えば、ニューヨークのほうが東京よりよっぽど優れています。私はニューヨークに滞在して自転車で走り回っていたこともあるので、実感としてわかりますが、東京と比べてニューヨークのほうが、よほど自転車走行空間の整備は進んでいます。

それでもニューヨークではダイ・インが起こり、より対策の進んでいない東京では抗議活動が行われたという話は寡聞にして知りません。日本人ももっと抗議してもいいはずです。なぜなら、明日自転車に乗っていて死ぬのは自分かも知れないからです。それくらい危険な状況にあるのに、危機感がなさすぎではないでしょうか。

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今までは歩道走行していたため、危機感がなかったというのはあるでしょう。今般、青キップが導入され、車道走行する人が増え、自転車インフラの整備が全く足りていないことを実感した人は多いでしょう。そうした一般の人から、青キップを導入するならインフラの整備が先だろうという声が上がっているのは変化だと思います。

しかし、声と言っても報道機関のインタビューの中で聞かれたり、一部がSNSなどで発言されているだけです。まだまだ是正を迫るといった強い行動ではありません。車道走行し始めたばかりで、実感が薄いのもあるかも知れません。何より半世紀の間、歩道走行させられてきたことも影響していると思われます。

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自転車インフラの乏しさにようやく気づいた段階で、その深刻さは、自分が被害者の遺族にでもならない限り、実感しないのでしょう。しかし、交通事故で自転車利用者がクルマにはねられて死亡するのは日常茶飯事です。繰り返しますが、明日は我が身なのです。

日本では半世紀もの間、歩道走行という間違った道路行政を続けてしまった結果、自転車インフラが足りていません。分離された自転車レーンを整備すべきですが、道路が狭いなどと理由で無理だとされています。しかし道路が狭いのではなく、クルマ優先の前提で考えるから整備は困難との思い込みなのです。

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そう考えると、「工場の操業優先」ではなく「人命優先」にさせたように、交通事故の問題についても、「クルマ優先」を「人命優先」にさせる必要があります。公害病で亡くなった方も気の毒ですが、交通事故で亡くなった人のほうが、桁違いに多いのも確かです。今こそ「クルマ優先」の罪を考えてみる必要があると思います。





◇ 日々の雑感 ◇

関東でも本格的な雨になっています。秋雨前線の影響で大雨や線状降水帯の発生も懸念され警戒が必要です。

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